「ひどいな」
大振りの傘を差していたのに、ぐっしょりと濡れた足元を見て呟く。
天気予報は曇り。
それでも用心して傘を持って出たのに、レインシューズまで必要になろうとは思わなかった。
「気持ち悪い」
水を吸った靴は足枷のようだ。
重いうえに、感触が何とも気持ち悪い。
やっと辿り着いた家の玄関で、拷問から逃れるように靴を脱いだ。
「ただいま。ねえ、タオル・・・」
持ってきてと頼む前に、目の前にタオルが差し出された。
黙って受け取ると、濡れた足を拭う。
「曇りのはずだったのにね」
「うん」
出掛けに天気予報を教えてくれた彼が、顔を曇らす。
別に彼のせいじゃないのに、僕が濡れたことで責任を感じているようだ。
「ごめんな」
彼は濡れたタオルを受け取りながら、手を顔の中心に持ち上げ謝った。
「君のせいじゃないよ。天気なんて、ころころ変わるものさ」
そう言う僕の顔をじっと見て、彼はますます顔を曇らせる。
「君の天気もころころ変わるのかい?」
ふふっと笑う。
長い付き合いだけど、最近やっとお互いの気持ちを確認しあったばかり。
恋人と呼ぶには、まだ照れが残る二人。
でも・・・。
「僕の天気は、君次第だよ」
君が破顔する。
外は雨。
でも、君が居れば、僕の心は快晴だ。

