俺からピアノを取り上げると、君は鍵盤の上に指を滑らせた。
驚いたことに君は俺の曲を完璧にマスターしていた。
君が俺の名を呼んだ。
華やいだ仲間達の中で、群れない俺のことなど君は知らないと思っていた。
広いレッスン室がある今、校舎の外れの古びた聖堂のピアノ室はほとんど忘れられた場所だった。
そこで再び君と会ったのは一週間後の穏やかな昼下がりだった。
一週間、ずっと君を思って曲を作った。
恋は指先から零れ、心へと帰っていく。
胸を締め付ける想いを音に乗せて、君のためだけの曲を奏でる。
静かな聖堂に厳かな鐘の音が響き渡る。
最後の鐘の音が消える前に俺は心を溢れさせた。
本を開くと、また読み始める。
穏やかな陽だまりが茜色に染まる頃、本の中の彼の恋もまた心へと帰っていった。
終






