書訓練 | Flog

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Frogの研究者の息抜きblog

--- since 01-06-07 ---

Louis-Jacques-Mandé Daguerreの生誕224周年、だそうで。
写真を発明した人物なんだ。知らんかった(笑)。

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最近、本を読んでいない訳ではないのですが、忙しくて、書評を書く時間がなく、久々に、書いてみました(あ、訓練の一環です・笑)。

と云う訳で、イキナリ、突然、書評(笑)。

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帚木 蓬生(ははきぎ ほうせい)の『白い夏の墓標』を読んだ(実際に読んだのは、改版ではなく、1983年版文庫であったが)。

1979年刊行、30年以上前の作であるが、古さを感じさせず、面白く読めた。これがデビュー作のようだが、既に、完成度は高い。

新潮社のホームページ(或いは、文庫の裏表紙)にある作品紹介を引用すると『パリで開かれた肝炎ウィルス国際会議に出席した佐伯教授は、アメリカ陸軍微生物研究所のベルナールと名乗る見知らぬ老紳士の訪問を受けた。かつて仙台で机を並べ、その後アメリカ留学中に事故死した親友黒田が、実はフランスで自殺したことを告げられたのだ。細菌学者の死の謎は真夏のパリから残雪のピレネーへ、そして二十数年前の仙台へと遡る。抒情と戦慄のサスペンス。』と云う粗筋であるが、当然乍ら、コレだけでは、何も判らない(笑)。

もう少し、詳しく。

仙台に在る北東大学細菌学教室に在籍していた黒田は、幼児の肺炎を引き起こす新種のウィルス、センダイウィルス(本文中では、センダイ・ヴァイラスと表記)を分離し、更に、そのウィルスは、感染した細胞同士を融合させる(細胞融合)、と云う性質を持っていることを発見した。この発見に眼を付けたアメリカ軍は、黒田を破格の待遇で、アメリカの研究所へ迎え入れる。目的は、異なる性質を持った細菌を"細胞融合"させて、新種の細菌兵器を作ることにあった訳だが、そんなことを知る由もなくアメリカへ旅立った黒田だったが、2年と経たぬうちに、自動車事故で亡くなったと云う報せが届いた。それから、20年余り、且つて、黒田と机を並べていた佐伯は、教授となり、学会で招待講演をすべく、パリに居た。以下、上述の粗筋に繋がる(笑)。


因に、『トリビア』であるが、センダイ・ウィルスは、架空のものではなく、東北大学医学部で発見されたものであり、実際に細胞融合を引き起こすことが、大阪大学で発見されている。

また、異種生物間の細胞を融合させる実験は、其の当時、実際に盛んに行なわれていた。作品中にも、軽く触れられているが、動物と植物の細胞融合も実際に行なわれているが、必ずしも、センダイ・ウィルスは必要としない。

植物細胞を融合させる為には、動物細胞とは異なり、細胞の周りを囲んでいる細胞壁を先ず取り除く必要があり、細胞壁を取り除かれた細胞はプロトプラストと呼ばれる。大雑把な云い方をすれば、細菌の場合も(植物のものとは多少異なるのだが) 外にある細胞壁を取り除いたプロトプラストを作った上で、融合させる必要がある。


閑話休題。

30年前と云えば、『細胞工学』と云う言葉が、一般にも認知され始めた頃であり、正に其の名を関した科学雑誌が誕生した頃でもある。トマトとポテトを細胞融合させて、ポマトが造られたのも、その頃である(因みに、結局、トマトもポテトもまともに出来ない代物であった・笑)。

医者でもある作者は、当時の最先端の医学・生物学の知識を効果的に物語に取り入れている。単にその頃の流行に乗っかっただけの物語であれば、今となっては、古臭くて読めたものではないのだが、本物語が、全く古く感じないのは、その構成の確かさの故であろう。

一読の価値有り、である。

Thu, Nov 17