ジョンは、金髪、青い眼、長身の、しかも、ハーバード卒の若手弁護士である。地下鉄の駅を出て、オフィスへ向かう道すがら、前方から俯いて歩いて来る男をやり過ごそうと、舗道に立ち停まって道を譲ろうとした瞬間、いきなり其の男が身体ごとぶつかって来た。あっ、と思った瞬間には、既に男は走り去って行き、
一瞬、ジョンは抱えていた鞄が盗まれたのかと思ったが、直ぐに別な異変に気付いた。右手の甲から血が出ている。何かで刺されたようだ。
その様子を物陰から満足そうに観ていた女が居る。
30分後、ジョンを襲った男は、その女と会っていた。
『ご満足戴けましたか？』
『えぇ』
『ではこれがあの男のサンプルです。既に冷凍してありますが、この装置では24時間以上の保冷は無理です。必ず、今日中に、このキットで、操作を始めて下さい』
女はお金と引き換えにサンプルとキットを受け取り初めて安堵のため息をついた。
これで、やっと彼のspermsが造れる。
今から30年程前に、その原理が発明されたiPS Cellsは、今や、再生医療には欠かせない技術となっている。その数年後には、ES cellsからヒトのspermsをin vitroで造りだす技術
が開発された。
長年、倫理的な規定から、iPS
Cellsからのsperms作製は、全ての国で禁止されて来たのだが、第４次世界大戦後、戦場に大量に撒き散らかされた放射線に依る障害の為に、まとも
なspermsを造れる男性の数が世界的に激減し、人類はその存続の危機にさらされるに及んで、iPS
Cellsからのsperms作製を認める国が現れ始めた。一旦、堰が切れると、もう、止められない。その頃には、iPS
Cellsは家庭で簡単に造れる医療キットまで市販されていたので、其処にsperms作製キットが加わるのは時間の問題でもあった。製薬会社はこぞって
開発競争に乗り出し、初のsperms作製キットが、人工受精キットとセットで発売され始めたのが、今から5年前である。
しかし、大きな問題が残っていた。ヒトの遺伝子資源そのものの枯渇である。まともな（無傷なmutationが入っていない）遺伝子を持つ男性が少ないのである。多くの女性は、戦争中は、安全なシェルターで暮らしていたので、卵細胞の元になる遺伝子の方は問題が少ない。
そこで、ジョンのような優秀な遺伝子を持つ男性から、皮膚の細胞の一部を、『盗み』出すと云う闇商売が、この数年、はびこって来た訳だ。依頼者の目の前で、targetから皮膚細胞の一部を採取し、それをキットと共に売りつける。
一年後。
女はジョンの面影など全くない赤ん坊を抱いて、途方に呉れていた。
それもそのはずである。ジョンの見てくれの良さは、後天的に造られたものであったのだから。つまりは『遺伝子整形』である。この時代では、金髪であろう
が、青い眼であろうが、遺伝子導入技術とiPS
Cellsを組み合わせて、自在に操れる。もちろん、法的には禁止されているが、闇の業者は幾らでもいるからね。手の甲の皮膚の組織は、遺伝子操作が為さ
れていない本来の遺伝子型を持っていた訳だ。
などと云う、下らないstory（↑）が、頭に浮かんで来たんですが、何とES cellsからspermsが造られたそうで、元の論文はこちらのページ
から。
In vitroで造られたspermは、In Vitro Derived sperm (IVD
sperm)と名付けられています。Scientificallyに面白いのは、XY染色体を持つ、つまり、男性由来のstem
cellsからは、sperms（厳密にはsperm様の細胞）を造れるのに、XX型のstem
cellsからは、精子形成の途中までは発生が進むが、やがて、ストップしまい、雌性配偶子が形成される際の減数分裂や成熟にY染色体の機能が必須だと云
うこと。実際には、この論文で示されているのは、運動性のある半数体のsperm-like
cellsが出来たと云うだけの話で、それが機能的かどうかは未知である。
って、個人的には、眉唾もの？と思ってたりして。
ぇっとぉ、何故、ジョンか？と云う突っ込みは、無しでお願いします。私にも分かりません。因に、Jonです（笑）。
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