美しいロサンゼルスの景色をバッグにこんなナレーションから幕を開ける、コーエン兄弟の『ビッグ・リボウスキ』。
僕は一番好きな映画が同列で複数個存在するのだが、この『ビッグ・リボウスキ』もそのひとつだ。
僕はオープニングでやられた映画はたいてい最後までやられる。
オープニングが良い映画が全て良い訳ではないとは思っているのだが、まだそういう映画には出会ってない。

この映画の主人公ジェフ・リボウスキ(ジェフ・ブリッジス)はこの名を使わず"デュード"という呼び名で通している。
"デュード"、かっこいい男といった意味合いだ。
このことからもデュードがいたって普通の男という訳ではないことはうかがえる。
初めのナレーションでは不精者と紹介される。
そんなデュードはある日、富豪である同性のリボウスキと間違われ、その嫁の借金の取り立てに襲われる。
間違われたあげく、部屋のアクセントとして気に入っていた敷物に小便までされる始末。
その件に対して怒りのおさまらないデュードはボウリング仲間でベトナム帰りの熱が冷めていないウォルター(ジョン・グッドマン)と小心者のドニー(スティーブ・ブシェミ)に愚痴をこぼす。
それを聞いたウォルターは、富豪のリボウスキに敷物を弁償させろ的な助言をする。
ここでのやり取りで既に僕はツボにはまってしまう。
それくらいコーエン兄弟の手がける脚本は僕のツボを押さえている。
なんとも自然で、よくありそうな会話のおもしろさを本当にわかっている。
話が逸れてしまったが、そうしてデュードは実際に富豪のリボウスキの豪邸へ足を運び、事の顛末を話すのだが、「この町では敷物に小便をされると私がそれを弁償しなけりゃならんのか!?」と叩き返されてしまう。
帰り際、リボウスキの秘書のような男に「話はつきましたか?」と聞かれ、「屋敷の敷物どれでも好きなものを持って行けと」と返すデュード。
うまい!と何故かここでも笑ってしまう僕。
同じく帰り際に、リボウスキの嫁であるバニーに出会うのだが、なんともピチピチなギャルで富豪のおっさんとはあまりにも不釣り合いでここでもユーモアを感じてしまう。
そんなこんなで話は進むのだが、今度は何故かリボウスキ側からデュードに連絡が入る。
話を聞くと、バニーが誘拐され身代金を要求されたのでデュードに身代金の受け渡しを頼みたいとのこと。
100万ドルの受け渡しで報酬は3万ドル。
この話をウォルターにしたのが間違いで、ひとりで来いと言われているにも関わらず、ウォルターと一緒なことが自然すぎるのか「俺たち」と犯人に告げてしまうデュード。
身代金の代わりに汚れたパンツの入った鞄を犯人の命令通り放り投げてしまい、挙げ句UZIを乱射するという失態を犯すウォルター。
散々な結果になったが、100万ドルは俺たちの元にある、と余裕を見せるウォルターをよそに100万ドルの入ったブリーフケースを車ごと盗まれてしまうデュード。
それからデュードはリボウスキの前妻との間に生まれたフェミニストで前衛芸術家のモード・リボウスキに呼ばれ、身代金に使った金が実はモードの管理する慈悲財団の資金であり、バニーの誘拐事件は狂言なのでその金を取り返して欲しいと頼まれる。
だんだんと話がややこしくなってき、今度はリボウスキに身代金のことで責め立てられ、必死の良い訳をするデュードだが、僕はこの言い訳のシーンで息絶えてしまうんではないかというほど笑わせてもらった。
何故こんなにも自然な会話の面白さを出すのが上手いのか、僕はほとんど感動に近い感情で笑い転げてしまった。
また話は進み、デュードの車は見つかったが肝心の金がラリーとかいう中学生のガキに盗られたと決めつけたり、おそらくバニーを誘拐した犯人であろうニヒリストたちに家でめちゃめちゃにされたりと全く飽きることがない。
それからまたしてもデュードは呼び出されるのだが、今度の相手はバニーが借金をしたポルノ映画プロデューサーのジャッキー・トリホーン。
彼との会話中に彼が電話応対をし、その際に何かメモを取り、それを見ていたデュードが隙を見て鉛筆でそのメモを浮き出さすのだが、浮き出たメモは激しく陰茎を勃起させた男のラフなイラスト。
訳がわからなさすぎて笑う事しかできない。
そんなジャッキー・トリホーンからも、バニーが借りた金をその身代金から引き抜いてくることで報酬を受け渡すという話を持ちかけられるのだが、何故か酒に睡眠薬か何かを混ぜられ、デュードは逮捕されてしまう。
まあ、すぐに追い出されるので大した問題ではなかったようだが。
家に帰ると、おそらくジャッキー・トリホーンの手下に荒らされまくった部屋にモードが。
そして彼女は「抱いて」と一言。
何故かデュードに妊娠の手伝いをさせたかったようだ。
映画も後半に差し掛かり、だんだんこの事件の真相が見えてくるデュード。
真相というのは、実はリボウスキは富豪のように見えるものの、経営の腕がてんでダメで実はそんなに金を持っていない。
その為、金遣いの荒いバニーがそろそろ厄介になってきていて、そこでバニーの誘拐事件が起こり、適当なものを詰めたブリーフケースをデュードに託し、身代金としての100万は懐にしまってしまおうという魂胆だということ。
真相がわかったところで一件落着かと思ったところで、真相を知らぬまま利用された形になってしまったニヒリストたちがデュードたちのところへ復習へやってくる。
結果、デュードたちはニヒリストたちに勝利するのだが、なんと小心者のドニーはその騒ぎを見て心臓麻痺を起こして死んでしまう。
なんとも虚しい感じで終わってしまうのだが、最後にボウリング場のバーで、劇中度々そこで隣に居合わせていたカウボーイ風のじいさんと会話を交わすデュード。
何故かこのじいさんはデュードのことを気にかけており、「気をつけて」などと声をかける。
それに対して「デュードは死なないよ」と答えて去っていくデュード。
「"デュードは死なない"。いいね、ホッとする言葉だ」とカメラ目線で語りかけてくるじいさん。
ああ、最初のナレーションはあんただったのか!その後の
「デュードは決して死なない、いつまでも俺たち罪人の味方だ」と意味深な言葉。
おそらくこの"罪人"という言葉の意味合いは、愚かさや滑稽さを背負った僕たち人間のことを指しているんじゃないだろうか。
それからこの物語について色々と語っていくのだが、僕はこの時コーエン兄弟の映画の構成という点でのあまりのセンスの良さに少し涙ぐんでいた。
全体的にチープな笑いやブラックな笑いが含まれていて、実に人間味のあるヒューマンコメディの最高傑作だと僕は確信している。
文章では伝えにくいカメラワークや映像センスもかなりずば抜けているので、この映画は本当に色んな人に観て欲しい。
