FRBによる利上げは誤った政策

金融引き締め政策は需要を抑制するものであり、もっと率直に言えば、敢えて景気 を悪化させる政策である。それは、需要が供給能力を超えて拡大することで起きるデマンドプ ル・インフレの対策としては、理論的には正 しいのかもしれない。

しかし、先ほど見たように、 二〇二二年二月以降のインフレの主たる原因がコストプッシュ・インフレであるとしたならば、 金融の引き締めは、誤った政策と言わざるを得ない。コストプッシュ・インフレ下での利上げ は、確かにインフレ自体は抑制できるのかもしれないが、その結果として、パウエル自身も認 めるように、家計や企業は犠牲になるからである。

パウエル議長は、利上げを行った理由として、インフレ期待が高まることを恐れたことを挙 げている。しかし、セントルイス連邦準備銀行のビル・デュポアらによる二〇一五年の研究に よれば、戦後のアメリカで、積極的な財政政策がインフレ期待を高めてインフレを起こしたこ とはほぼなかっ 中央銀行が積極財政によるインフレ効果を利上げによって相殺するという

政策をとっていなかった一九五九年から一九七九年や、世界金融危機対策として巨額の財政出 動が行われた二〇〇九年ですら、インフレ期待を通じたインフレ効果はわずかに過ぎなかった (UT) のである。


IMFは利上げによる世界的景気後退を懸念

二〇二二年七月、国際通貨基金(IMF)は、世界経済見通し改訂版を出し、一九八〇年代 初頭に先進国でインフレ対策として行われた金融引き締め政策がその代価として高失業率を伴 ったことを引き合いに出しつつ、現在、インフレ対策として行われている利上げが経済を停滞 させる可能性があると指摘し、二〇二三年の景気後退リスクは特に顕著であり、特にアメリカ の景気後退は不可避だという予測を示した。