ちなみにメイナード=スミスは、同じインタビューのなかで以下のようにも言う。

「イギリスでは、普通の風邪に対しても、医師たちが抗生物質を処方する。普通の風邪はウ イルスによって起こる。抗生物質は何の役にも立たないにもかかわらず、である。医師はこの ことを知っている。しかし、患者が欲しがるからという理由で、抗生物質を処方している。こ れも間違った行為だ」

その間違った行為は、耐性菌というかたちで私たちの前に現れる。 メチシリン耐性黄色ブド ウ球菌やバンコマイシン耐性腸球菌であり、祖母の命を奪った多剤耐性緑膿菌である。それら はさらに多くの命を今も奪い続けている。目に見えない細菌世界での進化競争は、人類が魔法 の弾丸を手に入れた時からすでに始まっていた。にもかかわらず、その本当の意味を知らなか ったのは私たち人間だけだったのかもしれない。