あとがき

本書を書こうと思ったのは、生活が厳しくなる一方の日本国民に、財政の真実を知って もらい、財政均衡主義からの脱却が、国民生活を改善するために絶対に必要だということ を理解してほしいと思ったからだ。

ただ、それと同時に、いくら頑張って書いても、世間の意識を変えることはできないの ではないか、という懸念も同時に持っている。本当は国民が立ち上がって、 ザイム真理教 打倒してくれれば、皆が幸せになれると思うのだが、それは難しいのかもしれない。


一般に「脱洗脳」には、洗脳がなされたのと同じ時間が必要だとされる。 ザイム真理教 が頭角を現してから4年が経過しており、いまなお続いているどころか、勢力を増してい 現実があるからだ。

2023年1月1日のテレビ朝日「朝まで生テレビ!」に出演した際、私は日本をよく するために必要な施策として、「財務省に解散命令」を出すことを主張したが、賛成してくれたパネリストは一人もいなかった。それどころか、私が何を言っているのか理解していたのはおそらく京都大学大学院の藤井聡教授だけだったかもしれない。

本文で記したとおり、幕府の「増税」で追い詰められた農民のうち、一部の者は一揆を 起こした。しかし、いまの日本では、一揆の気配さえ存在していない。そうしたなか、ザ イム真理教の本質に気づいた国民はどう行動すればよいのか。

私は「逃散」しかないのではないかと考えている。

いまの政府の戦略は「死ぬまで働いて、税金と社会保険料を払い続けろ。働けなくなっ たら死んでしまえ」というものだ。この政策から逃れる方法は一つしかない。

それは、高い生活費をまかなうために、必死で働いて増税地獄のなかに身を置く都市生 活を捨て、田舎に逃避し、そこで自給自足に近い生活を送ることだ。少なくとも現時点では、所得が課税最低限を下回っていれば、大きな税金も社会保険料も取られない。自ら育 収穫した食料も、太陽光パネルで発電した電気も、井戸からくみ上げる水も消費税は かからない。そして、住民同士で「おすそ分け」をし、不用品を売買する。個人間の売買 に消費税は課せられない。

ザイム真理教に献金をするために、奴隷のように働き続ける人生より、貧しくても、自 然に囲まれて、自由な人生を送る。そのほうがどれだけ幸せかわからないと私は思う。 私自身も新型コロナの感染拡大を受けて、本拠地を埼玉県所沢市の「トカイナカ」に移 し、家の近所の農地を借りて、野菜を中心とした「自産自消」を一人社会実験として続け てきた。

その結論は、月額十数万円もあれば、十分暮らしていけるということだ。

「節約」を強調したいのではない。納税のために人生をしばられ、嫌な仕事を続けるの ではなく、自由でやりたいことをやり続けることのほうが、ずっと幸せだということだ。 私自身の話でいえば、この本を書くこと自体が、最大の「自由」の享受なのだ。

本書は2022年の年末から2023年の年初にかけて一気に骨格を作り上げた。その 後、できあがった原稿を大手出版社数社に持ち込んだ。ところが、軒並み出版を断られたのだ。「ここの表現がまずい」といった話ではなく、そもそもこのテーマの本を出すこと 自体ができないというのだ。

岸田政権になってから、言論の自由が急速に失われてきたことは、私も肌で感じていた。 新聞には政権批判が書きにくくなり、テレビの情報番組はコメンテーターがお笑い芸人と アイドルに次々に置き換えられていった。ある信頼できる人から聞いた話では、某番組の プロデューサーは「政権批判をするコメンテーターはもう使わない」と断言したそうだ。 それでも私は出版の世界では、言論の自由は守られていると信じていた。もちろんふつ うのテーマは自由に書けるし、実際に私もたくさん本を出している。ところが、ことザイ ム真理教に関してだけは言論の自由がほとんどないのかもしれない。

正直言うと、私は出版をあきらめかけていた。そんななかで三五館シンシャだけが出版 を引き受けてくれた。

本書に書いた内容は、自分自身の体験と公的統計や公表資料に基づいていて、私自身、 絶対の自信を持っている。この本を手に取ってくださった読者のみなさんが、これまで日 本で起きてきたことの真実を知っていただけることを心から願ってやまない。

2023年4月

森永 卓郎