赤塚祐哉(2017)「国際バカロレアの外国語科目の教育手法とその効果:英語運用能力の向上と内発的動機づけに焦点をあてて」『グローバル人材育成教育研究』第4巻第1号

 

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本論文を読む理由は、ぜひともIBの外国語科目の教育手法が整理されたものを確認したかったからである。昨日読んだ論文と同年度に発表されているが、その前に発表されている。

 

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文部科学省は、2014年に「グローバル人材育成のための英語教育改革プラン」を提示し、「中・高等学校では、英語教育の目標がコミュニケーション能力を身に付けることでありながら、『英語を用いて何ができるようになったか』よりも、『文法や語彙等の知識がどれだけ身に付いたか』という観点で授業が行われ、コミュニケーション能力の育成を意識した取組が不十分な学校もあるとの指摘がある」との問題意識をあきらかにした。

 

そうしたことから、「国際社会の多様性に対応した目標・内容を設定し、幅広い話題について発表・討論・交渉などを行う言語活動の高度化を図ることが適当である。それにより、情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりするコミュニケーション能力を高める。」と、言語活動の高度化(発表、討論、交渉)を示した。また、高等学校の課題として、「教員の英語の使用状況は、全体的には改善されつつあるものの、『発話をおおむね英語で行っている』教員は、平成25年度普通科等の『コミュニケーション英語1』では15%、同『英語表現1』では14%にとどまっており、なお一層の推進が必要である」ことを示している。教材に関しても、「日常生活、風俗習慣、物語、地理、歴史、伝統文化や自然科学など現行の学習指導要領に示された題材の扱いや、単元ごとの目標設定が適切に行われていないとの指摘があった」ことが示されている。

 

これらの問題点を解決する方法として、本論文はIBの言語B(英語)の援用が適切であると考え、その効果を明らかにしようとする。

 

言語Bの学習内容は、改訂前の言語Bの「手引き」には、言語Bは3つの「コア」と呼ばれるトピックすべてと、5つの「オプションと呼ばれるトピックのうち2つを指導者が選択し、合計5つのトピックを2年間かけて学ぶ」とされる。(本件については、過去のブログで言語Bの教科書にもとづき、説明をおこなっている(English B を整理する5(学習テーマ) | Tanaka さんに伝えたい。 (ameblo.jp))。また、教科書については、「DPには日本の検定教科書にあたるものがないことから、教師はSGに準拠した教材を使用するか、あるいは独自で教材を作成する」との記述がある。

 

教育手法については、昨日の赤塚(2017)と同様の内容であった。つまり、①多彩なオーセンティック教材、②高次の思考力を育成するため、言語活動をおこなう、③話すこと(やりとり)、④文法はコンテクストの中で教えられる、ということである。

 

③にかかわる言語活動の比較についての知見であるが、本論文では「学習指導要領及び同開設では、言語の使用場面に応じ、どのような言語活動を実施するかを記載している」のに対して、「手引き」は「グローバルな課題を解決する主体的な生徒を育成するために、どのような題材や媒体(text)を取り上げるべきかについて記載している」ことを示している。

 

以上の問題意識と事実にもとづき、本論文は「言語Bの教育手法はグローバル人材として活躍できるCALPレベルの英語運用能力が身につくように構成されているのか」という問いに対する評価でIBの効果を測定することを試みる。CALPとは、認知・学習言語運用能力、つまり、運用する能力=使える英語を指す(file:///C:/Users/e-satou/Downloads/AA12508620-20121130-0111.pdf)。研究参加者である生徒には、一年のカリキュラムの中盤と後でライティングをおこない、そこにみられる実験群と統制群に分けた研究参加者の学術語彙リストの使用頻度と内容、構造の差であきらかにしようとした

 

それによると、頻度は増加し、内容に深まりが見られた。つまり、「構造に従って英文を書くスキル」には差は見られなかったが、学習言語運用能力が深化したと考えられた。したがって、言語B(英語)を取り入れた授業は思考力に効果があると結論付けられた。

 

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【感想】

本論文は、評価基準をライティングにおき、その巧拙を学術語彙の頻度に求めたという内容で道理がある。その一方で、いったい何を授業でおこなったのかが具体的に見えない。だからこそ、次の論文(昨日レビューした論文)が書かれることになったのだと推察される。

 

また、本論で学習指導要領と比較された「手引き」は、改訂されて新版がでている。新版については、IBのサイト(dp-subbrief-languageb_2020_jp.pdf (ibo.org))に概要があり、5つの所定のテーマ「アイデンティティ」「経験」「人間の創造性」「社会の構造」「この地球を共有するということ」を単元として履修し、そのサブトピックとして5~7つのトピックの例が示されている。これについては、また別にブログの題材に取り上げようと思う。また、単元ごとの大きな問いのサンプルも本サイトに示されている。しかし、これは概要にとどまり、詳細を知るには実際に運用されている現行の「手引き」および「テキスト」の分析が必要であると考えられる。

 

*CALPの理解については、宇都宮(2003)「BICS-CALP 区分についての覚書」 静岡大学教育学部研究報告(教科教育学篇)第 35 号(2004.3) 23~36 が参考になったことを付け加えておく。