て赤坂祐哉(2017)「国際バカロレア・ディプロマプログラム『言語B』の教育手法を参考とした授業を受けた学習者の意識-一般の高等学校でのモデル構築に向けてー」『国際バカロレア教育研究』創刊号 pp30-38

 

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本論文は「一般の高等学校で言語Bの教育手法を参考とした指導モデル構築」を目指し、「検定教科書を活用したうえでどのような指導を行うのか」を論じたものである。自分も同様の授業をしたいと考えるので、参考にするために読んでみた。

結論としては、できるだけ誠実に枠組みを模倣した実践であるため、IBの趣旨(固有性)が逆に分かりにくくなっている。多読多聴、言語活動、協調学習など、これだけ盛り込んで生徒がこなしきれればそれは結果は出るだろう、という印象である。もう少し、IB固有の特徴を限定して、その有無について調査するべきだったのではないかと思う。たとえば、IBが主眼とするのは「国際教育」であるが、本論文はそれについて言及しておらず、そこに研究が必要なのではないかと思う。さらなる課題の部分はとても参考になった。

 

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まず筆者は、学習指導要領と「手引き」を比較した赤塚(2017)を参考に、その相違点として、①「話すこと(やりとり)」の存在、②高次の思考スキルの具体的な育成プロセスの提示、③評価指標と方法の記載、④コア科目との関係、を挙げている。➡先日読んだ「言語A」の先生と同じ手順を踏んでいる。

 

また、検定教科書と言語B(英語)のテキストを比較し、①構成、②語彙、③題材、④質問の種類、⑤教科の横断性、⑥文法事項、⑦評価について表にまとめた。以下、その結果を簡単にまとめる。

 

①構成 単元は5つ、その下にサブトピックがあり、語数が圧倒的に多い。

②語彙 新出語句について、発音記号が示されていない。

③題材 生活で使われるさまざまな種類の教材が取り上げられている。

④質問の種類 自分の意見や主張を問う質問

⑤横断性 コア科目との結びつきがある

⑥文法事項 句読法など書くための知識

⑦評価 評価方法の明示

 

筆者は実践にあたり「言語Bの教育手法を取り入れた指導モデル構築にあたっては検定教科書に不足しているとされる様々な素材を活用することや、HOTsの育成につながる学習活動を意図的・計画に取り入れた」としている。

 

その実現のため、筆者がおこなった工夫は以下のとおりである。

 

①単元に合わせた教科書の学習内容の並び替え

➡単元のテーマを言語Bで定められたトピックに定め、たとえば、一学期には使用している検定教科書の Lesson 2, 4, 8を充てた。

②評価

➡プレゼン、ライティング(1学期)、写真描写にかかるやりとり、および、プレゼン(2学期)、エッセイライティング(3学期)

➡写真描写にかかるやりとりはIB内部試験に倣った。15分間の準備時間を設け、3~4分間のプレゼンを実施、5~6分のやりとりが正規であるが、筆者は1分間の準備時間を設け、発話に2分(説明30秒、自分の意見を1分30秒)のやりとりをした。

➡考査 7割マーク、3割ライティング(250~300語)

 

③副教材

➡トピックに合わせてオーセンティック教材の投げ込みをおこなった。

➡動画教材には、英語力に応じた動画を選択できるEnglishCentralをもちいた。字幕のない動画について、ペアやグループで要約し、自分の意見を述べさせた。

 

④コア科目(TOK)

➡プレゼンにTOKの手法を採用した

 

⑤高次の指向スキルを育成する学習活動

➡議論を促すような質問、ペアやグループで議論する場を設ける

 

⑥文法

➡学習指導要領の項目であるため、英語で適宜説明をおこなった。ドリルはおこなわなかった。検定教科書3割、副教材7割とした。

 

以上をもとに、本論文では「言語Bの教育手法を取り入れることにより、学習者は英語力が伸びた実感がもてるのか」というリサーチをおこなった。

 

分析結果は以下のとおりである。

①授業理解度

上位層は92%の理解を示したのに対し、下位層の生徒は70%にとどまった。下位層の生徒には適切な足場掛けが必要である。

②受動型スキル

上位層52%、下位層82%が伸びを感じた。多読多聴の効果であると考えられる。「聞く力が受験期よりも身についた」「難しい単語にとらわれずに、とにかく概要をつかんで、たくさん読むことでリーディング力がついた」。

③発信型スキル

上位60%下位82%が伸びを感じた。大量のアウトプット活動の効果である。「文法やスペルにとらわれることよりもひたすら書いたり、話したりして英語力が身についた」

④双方向型スキル

下位層30%の伸び。「相手の意見や考えを引き出すための質問方法が理解できたとはいえない」「質問に応答するための英語がぱっと出てこない」

➡「適切な質問文の方についてのインプットが十分ではなかった」「即興で表現する練習が十分ではなかった」

「質問力及び質問への応答力育成が課題」と考えられる。「授業の帯活動として、ペアまたはグループになり、答えが1つとは限らない議論を促すような質問・応答を大量に繰り返し行うといった学習活動を行うことが考えられる」。

⑤HOTs

上位層79%、下位層82%の伸び。「1つの出来事について別の視点で書かれた複数の新聞記事の比較」「自分の意見や主張を裏付けるためのエビデンスを収集」「実社会の課題から本質的な問いを立て、その問について探究するといった活動をおこなった」

 

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【感想】

限られた時間数のなかでよくもこれだけの内容をやりきったと感嘆するほどの実践内容である。ここまで盛り込むと、英語力の伸びは結局IBの趣旨を踏まえたからなのか、大量のインプットアウトプットが奏功したのか分からないように思う。内容的な理論がなくても、カリキュラムの枠組みを模倣すれば近似の結果が得られることに驚いた。というか、文法理解に対する不安を拭えない生徒をリードしきる信念が必要であると改めて思った。また、「やりとり」の育成には準備期間が必要であるというのは知見である。そして、HOTsを育成するための活動として、複数の視点で書かれた教材を準備した件につき、しかも、大量にありさえすればよいというわけではないということに気づかされた。単元を深めるための教材を配置する、これも単元のテーマを携えるからできる仕事である。構想力と綿密な設計、具体的な準備が必要である。

 

そして、思うに、このテーマを自分は引き継ぎたいと思う。三垣さんはライティングを中心に据え、ブレインストーミングとルーブリック評価、リフレクションでHOTsの育成をデザインしたが、同じ方法をとるのは聊か気が引ける。作文指導は長いが、せっかくだからディベートなのか。ちょっと考えてみよう。