【小説】スターゲートの向こうへ・2 | 沈黙こそロゴスなり

沈黙こそロゴスなり

The Message from the stars that illuminate your life.

スターゲートとは何か。簡単に言えば、特定の空間同士を繋げ、A地点からB地点へ瞬時に移動する為のシステムのことである。
このシステムにより人は、まさにドア・トゥ・ドアで遥か遠くの場所、例えば別の惑星などにも行くことができるようになるのである。

このシステムを発展させたものが、惑星レベルのマカバフィールドの形成技術である。この技術の目的は惑星ごと移動を可能にすることで、住環境を変えることなく、他の銀河や太陽系に引越しできることである。

ヒビルは過去数万年に渡ってこの研究をつづけていた。この技術の完成は彼らの悲願でもあった。

ヒビル達はアヌンナキという元々オリオン生系にあった文明の進んだ惑星の種族だった。
しかしあるとき彼らの星で大規模な世界戦争が勃発。一部の人々は宇宙へと脱出したのだ。
ヒビル達の乗った宇宙船は、長い間宇宙を漂流した後、太陽系の最も外側を回る惑星にたどり着いた。

この公転軌道が3600年もある惑星は長大な楕円軌道を描き、ほんの300年ほど太陽に接近し、残りは暗黒の宇宙の中にあった。
そのため、ヒビルたちが最初に行ったことは自らの体を遺伝子操作によって改造し、惑星ヒビルの環境に適応させようとすることであった。
彼らの行った人体改造の主な点は、人体の組成成分の変更であった。
例えば我々人類や同じ地球上に生息する動植物の肉体の構成成分は主に炭素とケイ素、そしてそれらが結合した炭水化物とタンパク質から成っている。
これに対して、ヒビルたちは3000年以上続く極冷環境に対応すべく、金属とケイ素を主成分とした生体組織への更新を行ったのだ。この改造により、彼らの肉体はいささか金属的な光沢をもち、ヘビのような質感と基本的に薄灰色の肌へと変化した。
もう一つの改造点は、細胞内に非常に発達したミトコンドリアを有したことである。これはミトコンドリアと言っても、どちらかというと植物に含まれる葉緑体に近い。
ミトコンドリアというのは細胞内において独立した遺伝情報を持つ特殊な器官で、主に酸素から多量のエネルギーを取り出す働きをしている。葉緑体はミトコンドリアと同じオルガネラから分岐し進化した器官で、光エネルギーを取り出し、また光合成によって有機化合物を生成することができる。
ヒビルたちは自身の細胞内にあるミトコンドリアを進化させ、より葉緑体に近い働きをさせることに成功した。このため、彼らの薄灰色の肌は緑ががっているのである。
この肉体の主な利点は、極超低温下での生存を可能とし、また少ない太陽光の下でも活動を可能とした。しかしながら、やはり太陽から最も遠く離れている期間は完全に暗黒の中におかれ、地上の気温もマイナス100度以下と極超低温となってしまうことから、ほぼ冬眠を余儀なくされている。

そんな彼らにとって、太陽のある暮らしはとても魅力的なものだった。
自らの惑星が太陽に最も接近する期間、彼らは有人宇宙船を建造し、周辺の惑星を探査した。
彼らが太陽系に到達し、肉体改造を完了し、最初に惑星探査を行ったとき、太陽系にはすでに先住民がいた。地球はまだ進化途中で人類は住んでおらず、火星はまだ緑豊かな惑星で、先住民たちはそこで暮らしていた。火星人たちの暮らしは素朴で質素であり、狩猟と遊牧が主な生活手段だった。
そこでヒビルたちは、人類への最初の介入を行ったのだ。
文明を持ち込み、大都市を建造し、スターゲートをつくり、惑星ヒビルとの接続を試みた。
しかし、大規模なマカバフィールドの形成には失敗した。もしこの技術が完成すれば、彼らはその技術を惑星ヒビルに適用し、惑星ごともっと環境のよい場所に移動するつもりだったのである。
つまり火星は彼らにとってちょうど良い実験場であった。

火星における実験の失敗により、火星のエネルギーフィールド、および磁場に著しい乱れが生じてしまった。
気候の大変動が起こり、人類が生存するには厳しい環境となって行ったのである。さらに追い討ちをかけるように、巨大彗星が火星をかすめて行った。
これはマカバ形成実験の失敗により、火星のエネルギーフィールドにゆがみが生じてしまったため、重力場もゆがみ、他の天体が接近しやすくなってしまったこととも関係があると思われる。
彗星は衝突こそ回避されたが、異常接近による急激な重力場の破壊により、火星表面の大気の多くが、宇宙空間に拡散してしまった。
急激な気圧の低下は、フリーズドライと同じ現象を引き起こし、火星の海はたちまち蒸発、大気と同時に宇宙へ拡散してしまった。こうして火星は生物の住むことのできない不毛の土地へとなってしまったのである。

しかし、ヒビルたちがこれで懲りることはなかった、それから数十万年後、彼らが再び目を付けたのは、地球で発達しつつあったアトランティス文明であった。
ヒビルが介入する以前のアトランティス文明は、とても豊かで平和なものだった。
多くの技術は平和を好むシリウス系の人々の支援を受けていた。
シリウス人たちが去った後、ヒビルはアトランティスに介入した。
アトランティス文明後期は、悲惨なほど悲しいものとなった。多くの技術が戦争と略奪のために用いられた。
ヒビルはここでもマカバフィールドの実験を行った。シリウスによって持ち込まれた優れた技術が応用されたのだ。

実験場は東向きの半島の先端が選ばれた。
実験場の準備が整い、全ての機器が所定の位置にセットされた。
計算上必要と思われるエネルギーが充填され、カウントダウンと同時にスイッチが押される段階となった。
そしてまさにちょうどその時である。
巨大なエネルギーの増幅に対して一部の電子機器の回線が堪えられなかったのだ。まさに計算ミスとしかいいようのない事態。
事故はまさに一瞬の出来事だった。
実験の責任者がスイッチを入れたとたん、研究所を中心として半径数十キロメートルに渡って大爆発が起きた。
施設は一瞬にして吹っ飛び、巨大なクレーターの中心は地殻を突き破りマントルに到達してしまった。
無数の地割れが大陸全体を覆い、そこから溶岩が噴き出した。
アトランティス大陸を乗せていた地殻は崩壊し、マントルの奥深くに沈降して行った。
一夜にして巨大な大陸は消滅し、煮え立った海だけがそこに残ったのである。

大陸を消滅させるほどの大惨事を起こしながらも、結果的にマカバフィールドの形成には成功した。しかしそれはとても不安定で惑星を移動させるほどのパワーはなかった。
しかも、もっと悪いことに、歪んだマカバフィールドを制御することができなかった。制御システムはすべて破壊され、暴走したエネルギーフィールドだけが残されたのである。
マカバフィルードのエネルギーにより、アトランティス大陸のあった付近には空間のゆがみが生じていた。そしてそこには目に見えない次元の亀裂と、異空間へ通じる穴があいていた。
不安定なエネルギーのせいで、穴の出口がいつどこにつながるかは誰もわからない。迷い込んだら最後、二度と戻って来れなくなるのである。
このような特殊なエネルギーフィールドのせいで、その海域は周辺よりも1メートルほど海面が上昇し、常に霧が発生するようになった。

その場所は、今でも魔の海域としてバミューダトライアングルと呼ばれている。

つづく