道場の体験入門の1ヶ月などあっという間のものであった。
始めの1週間こそ筋肉痛との戦いであったが、その後はしっかりと練習メニューについていき道場の選手や練習生にも認められつつあった。
仕事がびっちりあるので、週に2回~3回通えればいい方だったが、リョウは自宅でもできるようなトレーニングは、通えない日に自宅で自主トレと称して黙々とこなしていた。
強くなりたい。金澤を倒したい。
それだけのために生きているような状態だった。
2週目以降は基礎トレだけでなく、キックの仕方やサンドバック打ち、関節技のかけ方やはずし方なども教えてくれるようになった。
ただ、スパーリングや組み手はさせてもらえなかった。やはりそこは体験という立場だった。
リョウは実戦をやりたくて仕方がなかったが、ここはじっと我慢し黙々と練習に専念した。
体験入門終了まであと4日という頃、リョウは仕事の兼ね合いから、来れてあと1回かな、と考えていた。
(続けよう、金払ってでも教わる価値のある道場だ・・・)
リョウが1時間の基礎トレを終え、給水タイムを取っていると、リングの上で3人の練習生が笑いながら喋っていた、いつまでも・・・
リョウは、以前から気になっていた、この3人・・・たいして練習もせず喋ってばかり、副師範やトップの選手たちがいるときだけ真面目に練習している・・・正直気に入らなかった。
そしてこの日ついにリョウはキレてしまった。
「おい!いつまで喋くってんだよ!リングで練習したくてたまらない人間がこうやって下から悔しく思ってんのに、ろくに練習もしないでよ!やらねぇならさっさとリングから降りろ!」
3人の練習生はリングの上からロープ越しにグッと近づいてきた。
「ぁあ!体験の分際で何言ってんだよ!潰されてぇのか!?」
「てめぇらなんかにやられるかよ!かかってこいよ降りて来い!」
「だと!こらぁあ!!」
男たちはリングからドカドカとと降りてきた、降りてくるなりリョウの顔面にパンチを浴びせた。練習中だったため、男はオープンフィンガーグローブをつけたままだった。
リョウは、さすがにグラついたがすぐに顔をブンッと振り我に返り、相手のヒザ裏に蹴りを入れた。男はガクッとヒザを落とした。
教わった成果がしっかりと出ている、体重の乗せ方、軸の合わせ方、足の振り方、すべてを吸収したリョウの蹴りは以前のものとはまるで違っていた。
体勢を崩した男の顔面にボレーシュートばりの蹴りを見舞い、男は後方に吹っ飛んだ。
振り返りざま、別の男のボディにヒジを打ちこみ顔が下がった所にヒザをきめた。
最後の男はリョウの後方にスッと入り、リョウの首に腕をまわしてきた、スリーパーだ。リョウはとっさにアゴを引いたが、太い腕はリョウの首にしっかりと入っていた。
周りの練習生が「もうやめろ!お前ら!」と言いながら囲み始めた。男はそれでもスリーパーを外さない、逆にさらに絞めてくる・・・
リョウは薄れていく意識の中、身体を少しずつずらしていった。そして左腕に全ての力を込めて相手のわき腹にヒジを打ちこんだ。
「うっ・・・」
一瞬、男が息を飲んだのを感じ取ったリョウは頭をねじり下げスリーパーから少しだけ外れた、そしてさらにわき腹にヒジを打ちこみ続けた。
「そこまでだ!やめ~っ!」
道場中に響き渡る野太い声。場内の全ての人間の動きが止まった。
リョウに突っかかっていった3人の男がゆっくりと立ち上がり、やけに怯えている・・・
リョウも首をさすりながら、立ち上がり、声を発した男の方を見た。
「あ、あなたは・・・!」
リョウは男を見て愕然とした。リョウが尊敬してやまない男が眼の前に立っている・・・
