LOCO  1968

 

プロローグ

 

声が頭の上から降ってきた。

テーブルに覆いかぶさるようにがっついていた明は、

最後のソーセージにフォークを突き立てたところだった。

「もしもしそもそもあんたはだあれ」

彼がおそるおそるガッツいていたハンバーグのプレートから目を上げると、

目を丸くした若い女が立っていた。

彼女は、まるでいたずらっ子を諭す先生のような仕草で左手の人差し指を向けて、

「もしもしそもそもあんたはだあれ」と

繰り返した。

「あきら」

「ふーん。どう書くの」

「明治のめい」

「ふーん。じゃあきみはメイだ」

彼女は一人で納得したようにうなずきながら言った。

「ところでさあそっちはなんて名前なんだ」

「ロコ。フーテンのロコ」

「フーテン?」

「自由って意味さ」

ロコはそんなことも知らないのかとでもいうように鼻をつんと上げた。

「ところでさあ。今メイが食べてんのあたしの食べ残しなんだけとさあ。

まだ所有権はあたしにあるとおもうんだけど」

「席を立ったんだからきみの言う所有権とやらは放棄したはずだと思うんだけど」

「所有権を争うつもりないから安心してね」

彼女は突然闖入してきた青年に興味津々というふうに

「そんなに腹へってんの?

お金持ってないの?」

と矢継ぎ早に尋問を始めた。

「とちらも正解。きみって勘が鋭いね」

「馬鹿にしないでよ。見ればすぐ分かるじゃん」

「じゃあいちいち聞くなよ」

メイは最後のソーセージの断片を口に放り込んだ。

「アハハ。ごめん。ところでさ…」

「ん?」

「ここの勘定払ってくれない。実はあたしもお金ないんだ」

と彼女は悪戯っ子のような目をしながら言った 。

「会いたかったら新宿の東口のグリーンハウスに来なよ」

そう言うとくるっと背を見せて、素早く入口のドアを開けて消えてしまった。

脱出するタイミングを逸したメイは仕方なくコックのおじさんに一礼して

「すみません。お金がないんです」と

小声で言って神妙な表情を作って言った。

「まあ、残飯とはいえ箸を付けた以上共犯だな」

コックのおじさんは同情するような面白がっているような笑いを浮かべて言った。

「とにかくつぎの駅で降りなさい。駅には連絡入れとくから」

「あのう…」

「なんだ」

「できれば大阪駅で降ろしてください。それから電話代貸して…」

「ええ加減にせい。ああしろこうしろと言える立場か」

「すみません」

「まあ、ええわ。どうせ次の停車駅は大阪や。電話代は駅員に頼むんやな。

お前どこか憎めんとこあるよって何とかなるんちゃうか」