其処は解体直前だった。 | 緋ノ響馨

緋ノ響馨

実話綴の緋と演技性の獣,響.

 

「貴女の心友が住んでいたアパートの解体工事が始まったわよ」

実母からのLineはいつも突然だ。

寝転んで遊んだ芝生も、

手紙を渡し笑ってお別れをした庭もなくなると知って、

急いでその場所に向かった。

24年ぶり。

此処が壊される事を彼は知らないだろうと思いながら一枚だけ、

写真に収めてきた。

私はアレから毎日音楽漬けでいる。
「僕の指揮にあわせた最初のピアニストだよ」と、

730日間、

毎日笑わせてくれた心友の優しさに感謝している。

だが悲しくなるから会いたいとは思わないのは防衛だろうか。

彼はこの空の下で、幸せに、暮らしているのだろうか。

 

2017.3.12