ざわめきを抜け、静寂を歩く
数字を写す手が、重くなる。
何度も繰り返すうちに、
自分が何をしているのかさえ見えなくなる。
けれど、もし。
その数字が一度きりで済んだなら。
スマホに残した言葉が、
そのまま形となって流れ、
誰もが迷わず手にできるのなら。
エラーで止まる指に怯えることもない。
もう一度やり直す焦りからも解放される。
「入れた瞬間に終わる」という安心が、
背中をふっと軽くしてくれる。
帰り支度は急がない。
ホームに立つ自分は、
いつもより一本早い電車に間に合っている。
レジに並ぶ自分は、
「今日は無駄がなかった」と、
静かに笑っている。
誰かに見せるためじゃない。
会社に誇るためでもない。
ただ、自分がスマートにできたこと。
その小さな誇りだけが、
一日の終わりをやさしく照らしている。