【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】
チェルノブイリ原発閉鎖
傷む「石棺」安全は遠く 住民の雇用問題も深刻


ウクライナ国中がテレビ中継を見守る中、15日午後1時15分(日本時間同午後8時15分)すぎ、チェルノブイリ原子力発電所で最後まで稼働していた3号炉の停止ボタンが押された。同原発の完全閉鎖で、焦点は事故を起こした4号炉をコンクリートと

鋼鉄で覆う「石棺」の補強工事の早期実施など廃炉の安全確保に移る。

キエフ市内で開かれた閉鎖式典。ウクライナのクチマ大統領が「チェルノブイリ原発の3号炉停止を命じる」と大統領令を読み上げると、テレビ画面にチェルノブイリ原発が現れ、運転停止のボタンが押される瞬間が映し出された。この後、同大統領は「チェルノブイリの事故は20世紀最後の悪夢だった」と演説。「私たちは国家の利益を捨てても世界の安全のために行動する」と決意を述べた。

キエフ市民は今も事故の影響におびえている。書店で働くラリサさん(31)は「チェルノブイリ原発は事故直後に閉鎖すべきだった。今でも食料に放射能汚染が残っていると思う。でも怖くてだれもその話はしたがらない」と不安を隠せない。美容師のガリーナさん(50)は「同じ集合住宅に住む22歳の若者が白血病で亡くなり、葬式があったばかり」と声を震わせた。

しかし、チェルノブイリ近郊の町スラブチチでは「政治的な決定には納得できない」など閉鎖反対を訴える横断幕が翻った。原発閉鎖で約6000人の従業員が解雇される見通しで、深刻な雇用問題が起こっているからだ。「安全」と「雇用」の間で、地元の人たちの心も揺れ動いている。

チェルノブイリ原発では日本を含む世界26カ国と欧州連合(EU)の支援を受けて放射能物質の除去や石棺の補強工事が進められる。石棺は30年の耐久性を確保する設計だったが、すでにコンクリート壁にひび割れが発生、内部には放射能を含んだ大量の水がたまり危険な状態にある。7億6800万ドルをかけて補強する計画だが、具体的な工事内容については検討段階にとどまっている。(キエフ=石川陽平)


<チェルノブイリ原発事故> 1986年4月26日未明、ウクライナ北部のチェルノブイリ原発4号炉=黒鉛減速軽水冷却炉=が爆発、隣接するベラルーシ、ロシアや欧州諸国など8万2000平方キロに放射性物質をまき散らした。ウクライナ政府によると、半径30キロなどの住民約16万人が避難。ショイグ・ロシア非常事態相は今年4月、事故処理に当たった旧ソ連の作業員86万人のうち5万5000人以上がこれまでに死亡したと発表した。(キエフ=共同)

(日本経済新聞 2000/12/16)


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