【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】
六ケ所村・核燃再処理施設 クリプトン、大気中放出へ
気象に影響懸念の物質 「回収施設、高い」
青森県六ケ所村に建設中の民間初の核燃料再処理工場から出る放射性物質クリプトン85について、事業主体の日本原燃(本社・青森市)は回収施設を造らず、全量を大気中に「垂れ流し」する方針を決めた。クリプトンは気象に影響を与えたり、被ばくで皮膚がんを増やしたりするのではないかと心配されている。地元住民らは回収を求めてきたが、同社は「大規模な回収施設はコストがかかりすぎる」としている。同工場の建設費は、設計変更しても計画の2倍の1兆7000億円前後に達することが明らかになっている。
クリプトンは再処理工場の燃料を溶かす工程で発生する。茨城県東海村にある動力炉・核燃料開発事業団の再処理工場では、地元の要望もあって回収試験を始めている。「相当量を除去できそうだ」(環境技術開発部)という。
日本原燃も当初、回収施設の設置を計画。現在も敷地は確保しているという。だが、国への事業許可申請には盛り込まず、原子力安全委員会の安全審査などでは、クリプトンを全量放出しても大気中に拡散、周辺住民の被ばく量は非常に少なく、環境への影響もないとされてきた。
日本原燃は「回収施設を造ろうとすれば大規模なものになり、巨額の建設費をさらに押し上げかねない」(瀧田昭久・放射線管理部長)と、回収断念の理由を説明する。
反核団体、原子力資料情報室の高木仁三郎代表は「回収施設がなければ多量のクリプトンが垂れ流しになり、地球環境にも大きな影響を与える。経済性を理由に回収しないというのは許されない」と話す。
クリプトンは天然には存在せず、再処理工場や核実験などで発生する。ベータ線とガンマ線を出す。海水にはわずかしか溶けず、北半球では1985年までの10年間で濃度が2倍になり、世界気象機関(WMO)はオゾン層破壊や酸性雨を引き起こす物質とともに、監視項目に指定。日本では気象庁気象研究所が濃度変化を監視している。
(朝日新聞 1995/12/10)