【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】

英の再処理施設ソープ運転許可 核廃棄物処理 見切り稼働へ
「世界のごみ捨て場になる」住民らに強い不安

原発の使用済み燃料から、再利用できるプルトニウムやウランを取り出す英国核燃料公社(BNFL)の新しい再処理施設ソープは今月中旬、英政府が運転開始を許可したことで、稼働に向けて秒読みに入った。これがいったん動き出すと、再生燃料のプルトニウムとは別に、大量の放射性廃棄物が吐き出される。施設そのものも将来、解体されると巨大な廃棄物になる。この核燃料の「最下流」の対策は英政府内にも議論がある。ソープの今後10年の受注量の約4割を占める最大顧客の日本にとっても「核のごみをどう引き取るか」という難問を突き付けられることになる。(英セラフィールド=尾関章)


●断 続 音

ピッ、ポッ、ピッ、ポッ。汚染防止の白衣を着て、中に入った瞬間、断続音が聞こえてきた──。
運転許可が下りたこの15日、イングランド北西部セラフィールドにあるソープの内部を見た。「断続音は、警報装置が働いている証拠。何か異常が起こると連続音になる」。案内役の技術者J・エルドリッジさんがいう。
使用済み燃料を運び込むプールには、満々と水がたたえられていた。まもなく水門が開き、隣の棟のプールから、容器に入れた燃料が移される。操作台はプール際にある。ここはまだ人間が近づける領域だ。
だが、燃料が引き揚げられる一角は厚い壁に囲まれ、のぞき窓は七重の遮へいガラスがはめ込まれていた。その奥で、長さ数メートルの棒状の燃料が2.5-10センチの長さに切り刻まれる。放射性物質が裸にされる瞬間だ。
このあと約90度の硝酸に浸して溶かし、化学処理でウランとプルトニウムを分離する。工程を制御する階には手袋付きの遠隔操作装置が並ぶ。「化学工程は完全に人から隔離される」と、同公社広報担当のS・ウィリアムズさんは話した。
密室で操業が始まると、溶液や容器、機械類は放射能に汚染され、いずれは廃棄されることになる。


●膨らむ体積

「放射性廃棄物の全体の体積は処理によって、もとの使用済み燃料の53倍に膨らむ。将来、施設解体後に出るごみまで入れると189倍になる」と、環境保護団体のグリーンピースは見積もる。
15日、議会下院で運転許可を公表したガマ一環境相は「利益・不利益をはかりにかけた結果、運転するほうが得策との結論を得た」と説明した。「不利益」の大きな部分が、この解体と廃棄物の問題だ。
将来、最大のごみとなる施設そのものの解体について、同公社は解体に約9億ポンド(約1500億円)かかるとしている。世界的にプルトニウム離れが進み、再処理需要が減りそうな中で、この解体費は重荷だ。
再処理で出る廃棄物の問題でも、政府内に論議がある。英国をごみ捨て場としないため、同公社は1976年以降の外国との契約では、廃棄物を顧客に返還する取り決めを結んでいる。
ところが、実際には、高レベルの廃棄物だけを返し、体積で9割以上を占める中・低レベルは英国に残して、その放射能に見合う別の高レベル廃棄物を顧客に引き取っでもらう構想をもっている。輸送コストを減らすことで顧客離れを防ごうとの思惑からだ。


●反対の手紙

英国には、再処理施設の近くに中・低レベルの廃棄物の地中処分場をつくる計画があり、そこに廃棄物を運び込もうという目算だった。だが、環境相の諮問を受けた放射性廃棄物管理諮問委員会は、地下水に放射性物質がしみ出さないという保証がないと報告、同公社の構想に待ったをかけた。
この構想を断念して、顧客にそのまま廃棄物を返そうにも、日本には、いまのところ受け皿となる処分場はない。このままでは、中・低レベル廃棄物が宙に浮く恐れが出てきた。
ガマ一環境相は、運転許可を公表する中で、今年8月から開いた公開協議の期間に、地元住民ら個人から届いた意見約4万2500通のうち63%が運転に反対だったと認めた。翌日、ソープに近いランカシャー州当局は、ソープ問題の公聴会を政府に求める法廷闘争にグリーンピースと加わる方針を明らかにした。
「英国は世界の核のごみ捨て場になる」という不安感が英国内に広まりつつある。

(朝日新聞 1993/12/24)