【昔から事故だらけの原発 1976年~の事故】
放射性希ガスが増加傾向 10年前の約2倍に
気象研の観測で判明
【名古屋】
使用済みの核燃料再処理工場で発生する気体状の核分裂生成物(放射性希ガス)クリプトン85の大気中の濃度が増え続け、10年前の約2倍に達していることが、気象庁気象研究所の観測で分かり7日、名古屋市で開会中の気象学会で発表された。同研究所地球化学部の杉村行勇・研究室長は「量はごくわずかだが、半減期が10年と長く、確実に環境中の放射能レベルを上げていくので、再処理段階で対策が必要」と指摘している。
発表によると、観測地点は札幌、福岡など国内6カ所。これに米国、フランスのデータを加えた。その結果、北半球の現在のクリプトン85濃度は、大気1立方メートル中、24ピコキュリー(1ピコキュリーは1兆分の1キュリー)。南半球のデータは16ピコキュリーで、いずれも10年前の約2倍になっている。
商業用原子炉の再処理施設は、西ドイツ、フランス、英国、動力炉・核燃料開発事業団東海再処理工場(東海村)の北半球4カ国で操業中のほか、青森県・六ケ所村で、日本初の商業用再処理工場の建設準備作業が進められている。
東海工場では昭和60年度に28万キュリーのクリプトン85が気体廃棄物として放出された。
観測結果について、杉村室長は「再処理施設の増加だけではクリプトン濃度の増加率が高すぎる。2割ぐらいは軍用のプルトニウム回収施設からの放出が含まれているはず」と分析している。
また、人体影響について放射線医学総合研究所の阿部史朗・環境衛生第一研究室長は「現在の濃度を被ばく線量に換算すると年間0.005ミリレム程度で、許容線量の年500ミリレムからみて無視してよいレベル」としている。
回収技術を開発中
動力炉・核燃料開発事業団安全部の三浦信・次長の話 現在はそのまま放出しているが、放射能は微量でも好ましいことではないので、回収技術の開発を進めている段階だ。
超低温で液化して回収する技術はコストとの兼ね合いが難しく、各国とも苦労しているが、日本では1990年代の実現を目指している。
クリプトン85とは
原子力発電所から出る使用済み核燃料を再処理して、ウランとプルトニウムを抽出する過程で発生する気体状の核分裂生成物。半減期は10.7年でベータ線、ガンマ線を出す。呼吸しても排出され、臓器に取り込まれることはない。マイナス約153度以下では液体状になるため、日本をはじめ各国が極低温状態にして回収する技術を研究中。
(茨城新聞 1986/11/08)