仕事の帰り道、冴えない顔をした後輩から相談を受け始めかれこれ1時間。
(またか……。)
帰りたい気持ちとは裏腹に一向に終わらない相談に私は頭を悩ませている。後輩の相談は最近は毎回決まって遠距離恋愛中の彼女の話。連絡しても仕事で疲れて寝ちゃったからとなかなかこない返事、休みの日には友達と遊びたいからと延期になるデート。そんな状態が早2ヶ月…後輩もそろそろ限界らしい。
(なんだかなぁ、男って気付かないのかな。)
だいたいの予想がつく事。普通に付き合ってたらもう少しくらいは連絡もするものだろうし。そんな事を考えながら後輩の言葉に適当に相槌をうつ。
「聞いてます?先輩!」
「え、き…聞いてるよ……?」
私の適当な返事が気に触ったのか急に声をあげる。
(びっくりした。)
「だから、俺だって我慢してるんですよ。忙しいのはわかるんで、でも会える時間少しくらいは作りたいし。無理なら普通連絡ぐらいはしません?」
「うーん、そうだねぇー。私がそうだったらちょっと寂しいかなぁ。」
毎日毎日、一向に待っても来ない連絡。聞きたくても聞けない声。会いたくても会えない、触れたくても……
(あ、なんか……)
思考がぐるぐると別な方に回っていく。出来るなら思い出したくない記憶が、頭の中を駆け巡る。後輩の言葉に、昔の記憶を重ね合わせた。
「で?寂しいんだ?」
「そりゃ寂しいですよ、2ヶ月会ってないし…ぶっちゃけ俺だって健康な男子ですから。」
(そこまでは聞いてないんだけど。)
そこまで話すと後輩もやっと気が済んだのか、ただうつ向いて車のハンドルに額をつける。そんな姿を見ながら私はただ沈黙を続けるだけ。かける言葉もないし、私の中で駆け巡る記憶を消すのに精一杯だ。
(聞くんじゃなかった。)
あーだこーだとまた小さな声でぶつぶつと話始める。その姿に女々しいなと思いながら、嫌な事を重ねていく。
「慰めてあげよっか?」
不意に出た言葉に後輩は勢い良く顔を上げた。
「は……?」
「だから、寂しいんでしょ?慰めてあげよっか?って。」
一瞬、後輩の表情が揺らいだ。
「何言って…。」
後輩の声を遮るように、自分より随分と大きな体を抱き締めた。意外にも振りほどかれる訳でもなく、私の腕の中に大人しくおさまっている。
普段ならあまり感じない、タバコと整髪料の匂いが鼻をつく。大人しい後輩を抱き締めながら目を閉じる。瞼の裏にいつかの自分がまたぼんやりと浮かんでくる。
「先輩……。」
暗闇の中で静かに唇を重ねた。お互いに違う相手を思いながら何度も何度も。そうして月灯りが雲にかかった頃、寂しさを絡ませたまま体を重ねた。
ぽたりと私の頬に落ちた涙が、どうしようもないくらいに心を締め付けた。
