「お化け屋敷は好きかい」

 前を歩いていたユキト君は、突然振り向いてそんな事を言った。

 正直なところ、特に思い入れがあるわけでもない。
 その場の気分次第と言ったところだろうか。

 そんな事を思い、返事をしあぐねていた。

「僕の家は割と広いんだよ。ただ、かなり古くてね、雰囲気が少々――物々しいんだ。
 お化け屋敷が苦手じゃないなら――」

 ――僕の家に来てみないかい――

 前に居たはずのユキト君は僕の耳元でそう言った。

 反射的に後ろに下がろうとして、僕は尻餅をついてしまった。
 立ち上がろうとしても力が入らなかった。

 ユキト君はいつものように薄く笑っていた。
 ユキト君の後ろから幼い少女が姿を現した。
 ユキト君が二言三言発し、少女は頷いた。

 少女が手を伸ばしてきて、僕は言い様のない恐怖を感じた。
 少女の向こうに立つユキト君は――笑顔だった。



 聞きなれた着信音が聞こえる。
 体を起こして電話に出る。

「やぁ、目は覚めたかい」

 電話の向こうに居るのはユキト君。

「僕の家にようこそ。
 ルールは指示に従って家から出てくるだけ――じゃ、がんばってね」

 一方的に電話を切られた。
 状況がまったくつかめない。

 行動するのに支障はないけど、できれば明かりが欲しい――その程度の明るさ。

 携帯には"圏外"の文字。
 そもそも、ルールなんて聞いた覚えがない。
 とりあえず普通に出ればいいのだろうか?

 不意に肩を叩かれ、そちらを見る。
 そして、そこに居る女の子と目が合う。

 女の子は小首を傾げて不思議そうにこちらを見ている。

 顔だけ見れば普通の女の子。
 重力に従って逆立つ髪の毛、重力に従おうとするワンピースの裾を引っ張る足から生えた手。

 天井から伸びる紐をいびつに生えた複数の手で掴み、少女は蜘蛛を連想させる姿でそこに居た。

(続く)