「ヤツと目を合わせてしまったんだよ、君は」
数日前の夜、ぼくは不意に視線を感じた――しかし、誰かがいるわけがない。
狭い上に大して物も置いていない殺風景な自分の部屋に居たのだから。
しかし、感じるものは感じるのだ――得体の知れない何者かの視線を。
視界の端で何かが揺らぎ――その場所に目をやる。
しかし、あるのは見慣れたいつもの風景。
そんな事を数度繰り返したが、結局は何も見つける事はできず、そのまま寝る事にした。
そして、目が覚めたのが深夜、なんとなく時間を確認しようとした時の事だった。
時間を確認するだけの為に電気を点けるのも億劫だったし、電気を点けなくても家電製品についている時計なら時間の確認できる。いつもの反射的な行動で上半身を起こして、目的の方向に目を向けた。
一瞬、時計の表示が揺らいで見えた――そんな気がした。
寝起きだったから。
眼の錯覚だった。
そう思って寝てしまえば良かったのに、その揺らぎが無性に気になってしまった。
――ゆらり。
またしても文字が揺らいだ。目の錯覚ではなく、確実に揺らいでいた。
揺らいで、揺らいで、揺らぎがどんどん大きくなって、何かが顔に触れて――僕は気を失った。
「――だから、君は突然気を失ったんだよ」
自分の過去の事例を思い返しながら説明を終えた。
彼女は無表情のままドアの方をを指差した。そして一言。
――アレの事?
不可解な現象については『寝ぼけていたから』という事にして学校に行こうとしたあの日。
部屋のドアが閉まる直前、なんとなく振り返ったその先に――ヤツがいた。
そして今、彼女の指差した先にも――ヤツはいた。
(続く)