しばらくして、小雪を呼ぶ声が聞こえた。
先ほどの電話の主――小雪の母親だった。
「おかあさん!」
大きな声で叫んだのは人形少女だった。
鳥居の向こう側に見えるのは紛れもなく自分の母親だった。小雪は『ママ』と呼びかけようとしたが、声が出なかった。
「ねぇ、おかあさん。そっちに行ってもいい?」
人形少女が言うと、小雪の母親は早く来るようにと促した。
――ママ! ママ!
叫ぶが――声は届かない。
追いかけようとしたが――どうしても鳥居をくぐることができない。
どうしようもなくなって、二人の去っていく後姿を見送るより他にはなかった。
途中で一度、人形少女が振り向いた。そこには――これ以上ないくらい喜色に満ちた表情が貼り付いていた。
――時間はいくらでもあるもの。
人形の言葉を理解してしまった小雪だった少女はどうしようもなく悲しくなった。そして――誰にも聞こえない大声で泣いた。
いつまでも、いつまでも――
(続く)