あの夢を最初に見たのは、小学生になるかならないか――確かそのあたりだったと思う。そして、忘れた頃になると同じ夢を見るということを繰り返し、今となっては何度見たのかすら覚えていない。
 
 始めから終わりまで寸分違わぬ夢――ただ一点を除いては。
 その一点とは登場人物の自分が年を重ねていること。その夢を見た時の自分がそこにいるのだ。まるで、自分が主演のホラー映画を見せられている様にすら思う。さらには、僕が逃げ出したあとの光景すら鮮明に映し出してくれる。
 僕が逃げ出した後、あの首吊り死体は僕の方をずっと見続けるのだ。動かないはずの眼球を動かして。壁が邪魔して、僕の姿が見えないはずなのに。
 そして、激しく後悔しているのだ。
 
 ――僕が首を吊らなかった事に対して。
 
 そんな夢を見て目覚める朝は、最悪の気分だ。決して見慣れる事のない悪夢。
 いつもと同じく、気分は最悪だった――目覚めた直後は。
 
 今日に限っては、その後にいつもと違う光景が待ち受けていた。
 
 ――おはようございます。
 
 優しげな声が聞こえてきた。その声の主を見ると、三つ指をついている女性だったのだが、彼女に見覚えはない。一言で言えば『不法侵入』という事になるだろうが、文句を言う気にはなれなかった。
 それは、僕が彼女を魅入ってしまったから――。
 
 ――私とあなたは前世で夫婦でした。
 
 そんな事を言われても、疑う気にもならなかった。
 それほどまでに――僕は魅了されていた。
 
 彼女の言い分を全て信用するわけでもないのだが、ずっと昔から知っているような不思議な感覚に陥る瞬間があるのは確かだった。そもそも、大和撫子然とした彼女は僕の好みそのままだったし、例え間違いであったとしても、彼女にはずっと僕の傍にいて欲しい。
その想いに偽りはなかった。
 
 ――彼女が幽霊であったとしても。
 
(続く)