この世で一緒になれないなら、せめてあの世で――。
 
 女は男を見つめて言った。その視線の先で男は頷いた。
 二人の居る小屋は薄暗く、雨が屋根を叩く音だけが響いていた。
 
「あの世に逝っても、来世になっても、私は貴方だけを――」
 
 言葉の終わり際は嗚咽へと変わり、言葉としての意味を成さなかったが、二人には言葉がなくても分かり合えていた。少なくとも、女はそう思っていた。最後の口付けを交わし、薄闇の中でも顔が判別できる距離で女は言った。
 
 そろそろ参りましょう――と。
 
 剥き出しの梁から下がる二本の縄の先は、それぞれが輪を形成していた。手を伸ばさなければ届かない位置に取り付けられたその縄の使い道は、命を断ち切る為のものだった。誰からも祝福されない恋の行く末は最悪の結末を迎える事となった。男と女は話し合った末にこの場に居る。
 
 ――どうして?
 
 驚きの表情の女に対して、泣きそうな表情の男。
 やがて、女は腹部を刺された痛みを噛み殺してできる限りの笑みを作った。
 
 ――すぐに、追いかけて来てください。
 
 そう言って――女は崩れ落ちた。
 
 雨が止み、開け放たれた扉から差し込む光が映し出したのは、白装束を赤黒く染めた女の遺体――ただ、それだけだった。


(続く)