正門で待っていた少女は、無事に戻ってきた親友を見て胸を撫で下ろした。
学校に向かう段階で泣きそうになっていた親友は、笑顔すら見せて『大して怖くなかったよ』と言った。二言、三言と言葉を交わし、早めに立ち去ろうとしたが、親友はとんでもない事を言い出した。
――見せたいモノがあるから、一緒に入ろうよ。
耳を疑い、聞き返してみたが返答は同じだった。『明日にしよう』とも言ったが、聞く耳は持ってもらえなかった。結局、渋々ながらついて行く事にした。
先導する親友の足取りはしっかりとしたものだったが、少女は彼女の袖を掴み、余計なものを見ない様について行くのがやっとだった。
廊下を進み、階段を上り、親友はようやく口を開いた。
――ほら、見て――
言われるままに大鏡を見た。
大鏡の前に立っているのは二人。
悠然と立つ親友と、恐る恐る鏡を見る自分。
大鏡に映っているのも二人。
震えている自分と――鏡面を叩く親友。
泣き叫びながら、あらん限りの力で鏡面を叩く親友の姿。まるで何かの映像を見ているかのように――静寂。学校に来るまでに泣きそうになっていた親友は紛れもなく鏡の中に居た。
思わず鏡に駆け寄り、親友の名前を呼んだ――鏡面に両手をついて。
次の瞬間、違和感に気付いた。そして、手が鏡に吸い込まれていく光景を目の当たりにし――絶叫。必死に手を抜こうとするがどうにもならない。泣いても、叫んでも。どうしようもなく、助けもなく。その間も徐々に鏡に飲み込まれていく。
やがて――少女を飲み込み終えた大鏡の鏡面に波紋が広がり、今度は逆に少女の手が出てきた。先ほどの光景を鏡の裏から見る様に。
少女を飲み込むのと同じ時間をかけて、大鏡から少女が吐き出された。
大鏡に映るのは、無声で泣き叫びながら無音で鏡面を激しく叩く二人の少女。
大鏡の前に立つのは口元に薄い笑みを浮かべる二人の少女。
鏡から吐き出された二人は備え付けの消火器を持ってくると、大鏡を叩きつけた。
大鏡は粉砕され、踊り場には破片がばら撒かれた。真っ赤な破片が――。
破片を踏みにじりながら、出てきた少女が言う――出してくれてありがとう。
もう一人の少女が言う――私たち、親友じゃない。
(終わり)