トランプ政権の追加関税発動からおおよそ1か月。
先週末もトランプ氏のFRBパウエル議長批判が再燃し、株や債券・為替相場など不安定な状況が続いています。
早期に利下げをしてもらいたいトランプ大統領に対し、追加関税の影響が出てくる今後の状況をみてから慎重に政策をすすめたいパウエル議長との考えの違いが話題となっているわけです。

トランプ大統領は 「このまま利下げをしないと景気が悪くなるから早期に利下げをしろ」 と言っています。
ですが一般論として、現状アメリカのトリプル安(株安・ドル安・債券高)状況においてそして追加関税政策の影響が6月以降に出てくる可能性が高いと予想されている状況では、利下げは更なる物価上昇を招く危険性をはらんでいるためFRBは慎重な姿勢を崩さずにいるのです。
コロナ対策で各国が国内支援のために大量の資金(紙幣)を自国内に供給してきたため、先進国中心にインフレが加速してしまいました。

そして各国中央銀行および財務相はその “ツケ” を清算すべく慎重な金融政策をここ数年行ってきたのです。
その中でアメリカは国内の消費活動の回復と金融政策のバランスをギリギリ保つことで「ドル一強!」 を歩んでいました。

その結果、世界のお金がアメリカに集まりアメリカ経済を下支えしていた感がありました。
その一方、コロナ禍からのサービス業を中心とした急回復によって人手が不足し賃金インフレがすすんでいます。
アメリカの平均時給は2020年末の29.6ドルから2024年末には35.6ドルまで上昇しました。
現在のドル円レート(140円/ドル)で計算すると、日本円で4980円となります。

日本の2024年末の平均時給が1250円ほどでしたから、およそ4倍なのですね。
この平均時給からみればアメリカのあらゆるサービスの価格が上昇するのは当たり前となるでしょう。
もちろんこの時給で “モノ” を国内で作っていては更なる価格上昇になるため、アメリカの製造業は国外の安い労働力を頼って製造拠点を海外に分散してきました。
その最たる企業がアップルであり、テスラなのでしょう。
製造業を海外に移転するため、アメリカ国内で消費する “モノ” は基本海外から逆輸入となり、コロナ禍からの急回復時にはより多くの製品を海外から輸入しアメリカ国内の消費を支えることに成功した訳です。
つまりコロナ禍以降のアメリカの大量消費を支えたのは大量輸入によるところが大きいのですね。
さて追加関税が本格始動しそうになり、ドルの信用が下がることでドル安が進んでいます。
そうなると海外から物品を輸入していたアメリカの貿易産業は為替の影響を直接うけてしまいます。
そこに輪をかけて追加関税となれば、アメリカ国内に海外から入って来る “モノ” はすべて更なる値上げが必要となってきます。
このままでは国内消費が冷え込むので利下げをして景気浮揚を狙い、減税をしようとトランプ政権は考えるのでしょうがこの状況で利下げをしてしまうと一時的には減税と相まって消費は落ち着く可能性はありますが、物価高は収まるどころか加速する可能性が高くなります。
一般的に物価上昇を抑える方法として市場金利を引き上げ(利上げ)、出回ったお金(市場に供給された紙幣など)を市場から回収することで市場の貨幣供給を抑え金利を重しにして経済を抑える方法がとられます。
一方景気が悪くなるとお金が世の中に循環できるよう量的緩和や利下げをして景気浮揚を狙います。

今回トランプ氏が望む利下げは、景気後退を避けるため、そして6月の1兆3000億ドルの国債の償還のためと言われています。
国債の償還時に低利で新国債に乗り換える方法をとるなら市場金利が低いとメリットがありますから。
とはいえ政策金利を引き下げても、ドル安及び債券高になってしまってはその効果も無くなってしまうでしょう。
とにかく物価上昇懸念が強く予想されるこの時期の利下げは市場の資金循環をさらに加速し、更なる物価上昇を招きやすいのです。
さらにトランプ氏の考える減税策も、大規模緩和と同様に貨幣供給量を増加させ米国政府の借金を増やすことにもなります。
とするとイーロン・マスク氏を起用して大規模は政府予算削減を推し進めていますがその効果がここですべて消えてしまうという事も考えられます。
それこそ最初から何もやらないほうがよかった・・・ということになるかもしれませんね。
ところで似たような実例が数年前に実際起こっています。
2022年8月、トルコのエルドアン大統領は国内の急激な物価上昇を抑えるため中央銀行に介入し強制的に利下げを行いました。

その結果、インフレ抑制どころか更なる物価上昇を招き1年後の2023年6月から一転、急速な利上げを行って現在に至っています。
2022年7月に14%だった政策金利は翌年の1月に8.5%まで下げたのですがそのさらに翌年3月には50%まで引き上げてしまっています。
そして2025年4月現在は政策金利は42.5%です。
またトルコ国内の物価は2020年の物価を基準にするとおよそ6.6倍になってしまいました。

ちなみに2022年8月までは2.2倍でしたから、いかに2022年8月の強制利下げが取り返しのつかないことをまねいたかがわかります。
トルコ・リラと違ってアメリカドルは世界の基軸通貨としての役割を果たしています。
よってトルコと同じ道筋をたどるとは断言できませんが、ここで利下げをして万一インフレ加速なんて状況になってしまうとFRBも対処のしようが無くなってしまいます。
またFRBはアメリカの地区連銀を束ねている以上に基軸通貨であるアメリカドルの発行権限ももっています。

つまりFRBは世界に流通しているアメリカドルに対する責任を負っているのです。
ですから諸外国の中央銀行以上に自国政府と距離をとる必要があり、その独立性が基軸通貨であるドルの信認でもあるのです。
今回のトランプ氏およびトランプ政権の圧力によってFRBの屋台骨が毀損してしまうと、アメリカドルの基軸通貨としての存在が不安定化しドル離れがすすみ代わりに基軸通貨としてのポジションを狙っている中国・元に乗っ取られる可能性が出てきます。

しかし実際にはそんなに簡単にそのポジション(基軸通貨としての価値)が崩壊はしないでしょうが、アメリカの信用と国力は著しく低下すると思います。
かつて大英帝国の名のもとに世界の覇権を握っていたイギリスは第二次世界大戦後の世界の復興に力をそそいだアメリカによってその立場をアメリカに譲ることになりました。

戦後復興にアメリカドルが世界中で決済に利用されたのが大きいのです。
基軸通貨を自国通貨として利用できるメリットを捨てることにつながる今回のトランプ氏の発言。
どれほどの重みのある事なのか、理解しているとよいのですが・・・。


