最終章 ~ヒロシの帰還~
前回までのあらすじ
5年前の第3次銀河系大戦中”ヒロシ”を封印することにした寛。
終戦後、平和に暮らしていた彼が出張先の国から日本へ帰国しようと飛行機に搭乗して2時間が経過したときのことである。
飛行機の窓の外は一面の暗闇。
ずっと見ていると、なんだか引き込まれそうな不思議な、真黒というよりはネイビーかかった黒色。
―なんだか胸騒ぎがする
乗客の一人である寛はふとそんなことを思った。
彼自身、長旅のせいかひどく疲れていた。
―このままなにも起きずに日本につけばいいが
そんなことを思いながら寛はイヤホンを耳につけ、飛行機のシートのチャンネルを変え、落語などを聞いていた。
うつらうつらしてきたころに、急に少しばかり焦ったような声で機内アナウンスが流れた。
「お客様の中に、”ヒロシ”はいらっしゃらないでしょうか!」
寛はそれを聞いたとたん眠気も吹き飛び、全身をこわばらせた。
もちろんそれはCAの声がかわいらしかったからではなく、”ヒロシ”という単語が聞こえたからだ。
―なぜ今になって…… いや、俺はもう”ヒロシ”は封印したんだ!
いやな予感は的中し、緊張と焦りからか、汗が寛のほおをだらりとつたった。
「ど、どなたか”ヒロシ”はいらっしゃらないでしょうか! お願いします、いらっしゃたらお声をかけてください! お願いします……っ!」
今度はアナウンスではなく、CAがフロアに入ってきて悲痛な声で叫ぶように言った。
このとき、寛の中では葛藤がおきていた。
助けたい気持ち、封印を解くわけにはいかないという義務感、ストレートヘアーへの憧れ、だがそれによる、天パーキャラの消失。
だが、そんな寛の頭にふとかつての好敵Hの声が浮かんだ。
―「いいか、ヒロシ。 俺はもうここを去るが、お前と戦えて楽しかった。」
―「ああ、俺もだ。」
―「だがな、これだけは言っておきたい。」
そういって寛の眼を見据え、心の奥底まで響くような声でヤツは言った。
―「一瞬の寛になれ」
このとき、台風が通り過ぎたように、寛の心の中のもやもやしたものがスッキリした。
すると寛は何かにとらわれたようにすくっと立ち、自信に満ちた声で堂々と言い放った。
「ヒロシならここにいる」
夜明け近い空を突き進む飛行機の中に、雄々しく立つ天然パーマの後ろ姿があった。
~Fin~