四季第一話 二人の出会い
四季~『偶然世界』で出会い……春~
「二人の出会い(一括偏・関西弁)」
ボクは今日、とてつもなく暇だった。
だから、と言うわけではないが、いつも行く本屋に行った。ボクはこの本屋に来ると、絶対最初に文庫本のコーナーに立ち寄る。するとそこには、一人の静かそうな女の子が文庫本を立ち読みしていた。
「先客、か。でも珍しいな、ココでは。ボクと同年代の娘がココで本を読んでいるのなんて初めて見たな。何を読んでいるんだろう?」
好奇心と言うものだった。自分と同年代の娘がどんな本を読むのか気になったんだ。だからボクはその娘の隣に行って本を選ぶフリをして、彼女の読んでいる本をのぞこうとしたそのとき、偶然にもその娘と目が合ってしまった。
「なに?」
その目が合った女の子がボクに話しかけてた。普通話しかけてくるか、目が合ったくらいで?
「い、いや。別に。どんな本を読んでるんかなぁ、と思ったから」
答え返すボクもボクだ。いきなり話しかけられてこんな事を言うか?確かにこのときはいきなり声をかけられて気が動転していたけれど、普通は「すいません」ぐらい言うだろう。
「そう。キミも本読むん?」
「ん、ま、まぁ普通の人よりは読んでるつもりやけど、何で?」
やはりおかしいだろう。初対面の人間にいきなり質問を投げかけ、しかもそれを普通にタメで返しているボク。おかしい以外の何ものでもないだろう。
「えぇ~、全然見えへんよ」
「マジで見えへん?結構本読むの好きやねんけどなぁ」
「うっそ~、ホンマに?全然見えへんで。むしろ家で美少女フィギアとか集めてなんかへんなことやってそうやけどなぁ」
「えぇ!マジで!?」
「ジョーダン♪」
結論。この娘はおかしい。でも、この娘よりも絶対ボクのほうがおかしい。なにせ初対面の人間に思いっきり冗談を言ってくる少女と、その少女普通に笑って会話している少年。どちらもおかしい。でも、おかしいものどうし、気があったのだろう。話はものすごくはずんだ。
「よかったぁ。ゴメン、今メッチャ、ほっとしたんやけど」
「ゴメンゴメン。でも、ちょっとぐらいは見えんで?えぇと……」
「あ、ボクは雨宮。雨宮 羽留」
「そう!ハル君!私は葉山 和美。和美でいいで」
普通はいきなり名前など名乗らないだろう。でもボクたちはおかしいんだ。そんなことは気になどしない。
しかし、何で和美ちゃんはボクに目が合っただけで話しかけてきたのだろう。普通、目が合っても無視するか、会釈をする程度だと思うのだが。
「なぁ、ハル君?キミってどんなジャンルの本読むん?」
「ん~、ボクは基本的にライトノベルかなぁ。まぁ他の本も読むけど。あ、漫画も結構読んだりするな。和美ちゃんはどうなん?」
「私も同じようなもんかな?読むのはライトノベルが中心やし、もちろんそれ以外の小説も読む。それに漫画だって読んでるで?ほぼハル君と同じやな」
ふむ、やはりボクと和美ちゃんはタイプが似ているな。まずおかしいから始まり、その次に読むものはライトノベルが中心、もちろんそれ以外の小説も好き。それに漫画も読む。ボクたちって結構気が合うんじゃないかな。
「そやな。あ」
「ん、どうしたん?」
「なんか店員さんに見られてる。そういやここって本屋やもんな。静かにせな。う~ん、どうしよっかな、この本案外面白かったし買おっかな」
「どんな本?あ、ボクこの本持ってるで」
「どんなやった?」
「う~ん、冒頭は良いねんけどな、話が進んでいくにつれてなんか趣旨が全然違う方向にずれていくねん。序章だけ読んだら普通のSFもん見たいやねんけど、読んでみるとSFっつー設定が全然生かされてないねんな。はっきり言って、内容はただの恋愛系。しかもラブコメとかそんなんじゃなくて、なんっつたらええんかなぁ……」
「ドロドロ?」
「そう!それ!ドロドロやねん。ボクはそんなんがあんま好きじゃないから途中で読むんやめた」
和美ちゃんは「フーン」と言って少し悩み、結局その本は買わずに棚に戻し、代わりに違う本を棚から手に取った。その本はさっきの活発そうな少女が載っていた表紙の本とはちがい、今度はものすごく殺伐とし、刀を構えた少年とその後ろで携帯をいじっている少女が載っている表紙の本だった。
「コレとどっちにするか迷っててんなぁ。ありがとうハル君。キミの助言でどっちにするか決まったわ」
別に助言なんてたいしたものではないのだが。まぁいいや。感謝されて悪い気になる人間んてそうはいない。もちろんボクは感謝をされたことに喜んだ。
「ふ~、なんか変わった娘やったな。ま、ボクも変わってるから人のこと言える立場じゃないけど。さて、ボクは何にしよっかなぁ」
ボクは和美ちゃんのことを考えながらどの本にするか迷っていた。
「……そういや、メッチャ可愛かったなぁ、和美ちゃん」
ボクは独り言をつぶやいていた。そもそも独り言なんかつぶやくタイプではないのだが、なぜかこのときはつぶやいてしまった。
「ハ~ル君」
と、ボクを呼ぶ声が聞こええ、ふと我に返ったボクは今の独り言を誰かに聞かれたのではないかと思い、頬を朱色に染めた。いやそんなことより、ボクを呼んだ声の主はなんと
「へ、はぇ?か、和美ちゃん?」
「うん?どうしたん?顔、赤いで?」
和美ちゃんだった。どうしよう、もし今の独り言を、しかもよりによって当の本人である和美ちゃんに聞かれていたら……。ボクはもうこの本屋に恥ずかしくてこれなくなってしまう!
「か、和美ちゃん、今の聞いてた?」
「今のって?」
よかったぁ。聞かれていなかったようだ。和美ちゃんの反応を見てボクはある程度安心し、和美ちゃんに質問を投げかけた。
「ううん、なんでもないねん。それよりどうしたん?もう本は買ったんちゃうの?」
「うん、買ったから帰ろうと思ってたんやけどな、今誰も家におらんねんやん。しかも鍵がないから家に入れへんし」
「うん、それで?」
「暇やから喫茶店でも行こうとおもうんやけど」
「ふむふむ」
「一人やったら恥ずかしいやん」
「そやな。で?」
「だからハル君も一緒に来ーへん?」
「……え?」
ちょっと待て。ボクは仮にも今日はじめてあった男だぞ?確かにいろいろと話したさ。でも話したといっても数分だけのこと。そんな男を喫茶店に誘うなんて
「……いや?」
「い、いえ!めっそうもございません!」
ボクは今、偶然行きつけの本屋でであったな少女、葉山和美ちゃんと一緒喫茶店の中にいる。それも2人きりで。いや、別に店の中には店員さんもお客さんもいるのだが、そんなことはどうでもいい。重要なのはもしかするとコレはいわゆる、あの『デート』と呼ばれるものに見えるかもしれない否、見えてしまうということだ。
「どうしたん、ハル君?なんか顔が赤いで?」
「う、ううん、なんでもない。あ、そや、これ読んだことある?」
「ん、どんな本?ああこれ。読んだことあるよ」
「やっぱり」
「なんで?」
「いや、ボクら好きなもんが似てるから」
「あぁ、なるほどな!確かににてるもんな、私ら」
「し~、和美ちゃん、声が大きい。ここ喫茶店」
和美ちゃんはハッとした顔をして
「ごめんね、忘れてた」
と言った。その顔はとてつもなくかわいかった。そのかわいさを表現する言葉はどうやらボクの少ないボキャブラリーの中にはないみたいだ。だから、自分たちでそのかわいさを想像してくれ。
(……これって、傍から見りゃデートみたいにみえるよな)
そんなことを考えていると和美ちゃんがボクの顔を下からのぞいてきた。
「また顔が赤いよ~?」
「ふえっ!?」
「ハル君、声が大きい。ここ喫茶店だよ?ってあれ、このセリフどこかで聞いたような……?」
「それは僕が言ったセリフ。っつーか和美ちゃんがいきなり顔の下に出くるから」
「あぁ、そうかゴメンゴメン」
ふえ~、よく考えてみたらボクは今、女の子と話しをしてるんだよな?今までのボクじゃ考えられないことだ。なにせボクは今まで女の子と話そうとすると、緊張してまったく話せなかった男なんだから。
ボクはココでひとつの疑問が浮かんだ。
「そういや、何で和美ちゃんはボクに話しかけてきたん?」
ボクのこの質問に和美ちゃんは何をいまさらというかんじの口調で言い放った。
「え、それはハル君が私のこと見てきたからやん。何言ってんの?」
「そ、そう」
…………やっぱり変だ。いや、確かにボクも変なのだが、普通はちょっと目が合ったくらいで話しかけてくるなんてありえない。あったとしても、小説やマンガの中くらいのものだろう。はっ!もしかしてコレは新手のスタンド使いか何かか!?……じゃなくて、新手の宗教勧誘か何かか?
そんな馬鹿げたことを考えているとまた下からボクの顔を覗き込んで(しかも上目づかいで)言った。
「どうしたん、今度はやけに考え込んでる顔してるけど……」
「ねぇ、和美ちゃん、だから下から覗き込まんといて。なんかすっげー恥ずかしいんやけど」
「あぁ、ごめんごめん。でもホンマにどうしたん?今度は考え込んでる顔してるうえにものすごく顔が赤いで?どっか痛いん?それとも病気かなんか?」
「い、いや、なんでもない」
「なんでもないわけないやん。ホンマに顔が赤いで?」
はっきり言って和美ちゃんはかわいすぎる。だから顔を直視できないんだ……なんて言えるわけないじゃないか。そんなこと言ったあかつきには顔から火を出してそのまま逆立ちして十二階建てのマンションの屋上にのぼり、遺書も書かずに飛び降りてしまうだろう。
「ホンマに……」
あぁ、もう無理だ。そう思ったとき、神なんて信じてなかったボクが、神を信じたくなるほどありがたいことがおきた。和美ちゃんの携帯がなったのだ。しかもメールではなく、電話のほうで。
「ちょっとごめんな」
と言って和美ちゃんは席を外した。おそらくトイレかどこかで通話するつもりなのだろう。
「……っはぁ。ハズっ!ボクめっちゃ顔赤かったんちゃうん!うわ~、どーしよ、こんなとこで女の子と二人なんてありえへん!いや、店員さんとかボクら以外のお客さんとかもいるけど!そや、園部君にメールしな!」
園部君ってのはボクの友達で、よく恋愛相談をしたりされたりする中だ。
「え~と、『今、女の子と喫茶店でお話中』と。送信」
メールを送ってから三十秒で返事が返ってきた。
「はやっ!まぁいいや。えぇと何々『…………死ね!!』…………。は?」
死ね。何故に?なぜにいきなり死ね?と、とりあえずもう一回送ってみるか。内容は『何故にいきなり「死ね」か!?しかも嘘ちゃうぞ!ホンマやぞ!!』と。送信。
今度は二分ほどしてから返事が返ってきた。
「あ~と、今度はどんなにんやろ。みんのがちょっと怖いな。えと『そんなわけないやろ馬鹿!この浮気もん!お前桃井さんのことが好きやったんちゃうんかい!?それやのに最低やなお前は!!』……って言われてもなぁ……」
あぁ、メールするんじゃなかった。コイツは誤解を解くのが大変だぞ……。
「っだ~~~!! この誤解は絶対に解けへんやろなぁ~~……」
叫んだはいいが、僕はここが喫茶店だと言うことを忘れていた。平日とはいえ今は昼間の喫茶店にはそれ相応の人がいる。……かなり周囲の視線が痛い。現に今だってウエイターのお兄さん(金髪ピアス付でおまけにガラが悪い)に「他のお客様のご迷惑になりますのでお静かに願います」とめんどくさそうに言われた。
「あぁ、畜生。どうすりゃいいんだぁ~……」
もちろん僕の嘆きに返ってくる答えは……
「どうしたん、ハル君?」
あった。和美ちゃんが通話を終え、戻ってきたみたいだ。しかしこの状況で「どうしたん?」と聞かれても困る。僕が悩んでいる原因は五割園部君の誤解メールで五割彼女だ。ってか、メールの内容は彼女の話だから十割彼女のことで困っていることになる。
「や、別になんでもない……」
しかし彼女はその答えに納得してくれなかったのか、少し不服そうな顔をしている。が「ふ~ん……。ならいいけどね」と、深くは問い詰めてこなかった。
問い詰めてはこなかったが、やはり不服なのだろう。心なしか和美ちゃんの眉間に少しシワがよっているような気がする。これではいつ聞き返されるか分からない。そう思い、僕は話をそらした。
「和美ちゃん、今の電話誰から?」
さっき出会ったばかりの僕が彼女に聞くことではないし知ることではない。だが、彼女は思い出したように手を「パンッ」と叩き、あわてた様子で僕に話した。
「あぁ、忘れてた! そのことやねんけどね、ハル君。 ゴメンっ! お母さんが家に帰ってきたみたいいやねん」
「うん」
何かこの先、和美ちゃんが言いたいことは分かる。分かるけど、出来ればそうであってほしくないな。
でも、僕のその願いはむなしくも叶わなかったみたいだ。
「だからもう帰るわ」
「よかったなぁ、早くにお母さんが帰ってきて」
僕にとっては良くないけどね。あぁ、せっかくの女の子と二人っきり(しつこいようですが店内には他にもお客さんは居ます)の時間が無情のも裂かれていってしまう~……。まあ和美ちゃんはそんなことは考えてはいないだろうけどね。
その証拠に、彼女は思い切り良い笑顔で「うんっ!」と言った。ってか今時こんなに良い笑顔をする娘がいるなんて、世の中捨てたもんじゃないな。
そんなとはさておき、僕たちは二人の出会いに別れを告げた(そんなに大げさなもんじゃないよっ)。
「じゃあね、ハル君。楽しかったで!」
そう言って彼女は伝票をみて自分の食べたスペシャルサンデーパフェ大盛メロンとスイカのトッピング付のお金を置いていった。……しかし、よく食べれたなあんなもの。
まあ、何はともあれ僕たちは偶然の出会いに別れを告げたのである。そう、これで終わりだ。
「あ~、畜生、もうちょっと話してたかってんけどなぁ……」
思えば結構不思議なんだよね。これって。ただ本屋で偶然出会っただけで喫茶店に行くなんて。そういや僕は結局彼女のことは名前以外何も知らないんだよな。まあ仕方がないことだけどね。
「しゃーない、そろそろ僕も行こかな」
そう言って僕が席を立とうとしたそのときだった。
「あ、良かったぁ、まだいてくれたぁ」
何と和美ちゃんが戻ってきたのだ。
「どうしたん、和美ちゃん? 帰ったんちゃうの……?」
「うん、一回帰ろうと思ったんだけど、肝心なことを忘れてて」
何を忘れたんだろう? ここには何もなかったけど。
「あはは、違うって。忘れたのは物じゃないねん」
「じゃあ、何を忘れたん?」
僕のその言葉に和美ちゃんはまたあの屈託のない笑顔を浮かべ言った。
「アドレスの交換。せっかく友達になれたのにこれやったらもうあえへんかも知れんやろ?」
またこの娘は……。
「どうしたん? あ、もしかしてイヤやった?」
「そ、そんなことはないで! むしろ大歓迎!」
「そう? 良かったっ!」
こうして僕たちはメールアドレスを交換した。そう、僕たちの偶然の出会いは『友達』という絆を作った。
僕たちの楽しい出会いはここから始まったんだ。
…………あ~、そういや園部君」の誤解も解かなきゃねぇ。
