一昨日、江戸川区にある「春花園盆栽美術館」にお邪魔しました。

 

素晴らしいかった。何が素晴らしいかと言えば、床の間のしつらえをいくつか設けてそこに盆栽、掛け軸、水石、小物を巧みに配置しているその「見せ方」がアートになっているという点です。外には整然と盆栽が並んでいて、それをみても面白いのですが、「外に並んでいる盆栽も良いけど、あっやっぱり盆栽の居場所はここだよね。」

 

その中でも僕が一番素晴らしいと思ったのは、

向かって右側に、杉の盆栽があって、その後ろに月と雲の掛け軸。左手奥に山に見立てた石。そして、右端に鹿の置物。まさに、夜、雲間に見える月を見上げながら、奥に山々が影のように連なり、鹿の鳴き声が聞こえてくる。そんな情景を、空間で表現してあます。床の間という空間アート。

 

翻って、日本画を考えた時に、絵の見せ方まで考えている画家はあまりいないと思います。

絵を描いて、デパートやギャラリーや美術館に展示するのは画商さんだったり、美術館の人だったり。自分でやるとしても、ほとんど、デパートや美術館の配置のフォーマットがあってそれに準拠してどの絵をどこに置くか。というところまでです。明らか目的が違うわけです。ギャラリーやデパートは販売のためのスペースで、美術館も絵を見せる場であって、床の間の場合は、その前で、お茶を楽しむとかおしゃべりを楽しむとか。「日本美術を見せる美術館」を作るべきだと思います。そこには床の間がしつらえていて、畳の上に座って床の間の前で、「座って」絵を楽しむ美術館です。

 

掛け軸を横に何十幅もずらりと並べて鑑賞する美術館スタイルは、本来はあり得ない光景な訳です。でも、西洋から入ってきた美術館スタイルはそれだったから、そうして鑑賞しているのですが、その見せ方だけでは、掛け軸の絵の内容が完結しないと思うのです。

庭に並べられた盆栽を見ても、確かに一点一点、見どころもあるし、面白い盆栽は面白いのですが、やっぱり、床の間に収まって、ぴたりとくるんですね。

 

日本画もそういう空間をイメージしながら描く、あるいは、そんなものとして考える思考も必要なんだと思いますが、現在は(僕も含めてですが)ファインアートとして、西洋の基準に沿って絵を描きそれを、美術館やギャラリーで鑑賞するというスタイルになってしまっています。

 

また、絵を座って鑑賞するというのも、美術館ではほとんど体験できません。人は立っている時よりも座っている時の方がリラックスしてますから、芸術の鑑賞には向いているわけです。音楽然り、演劇然り、基本座って楽しむわけです。ところが、なぜか絵を見るときだけ立ってみる。なぜかというのは、西洋からそういうスタイルが日本に入ってきたからです。日本では畳の上で座って見ていたわけです。

 

グローバルスタンダードといえばそれまでで、それはそれとしてもちろん必要だと思いますが、日本のアートをアートとして楽しむ場がどこにもないというのも、一方で問題ではないかと思うわけです。

 

そんな話を小林國雄先生としていたら、海外から来た観光客が東京で行きたいところベスト5にこの盆栽美術館が入っているとのこと。そうですよね。日本に来て、西洋的な美術館や博物館よりも、こういう日本文化を楽しむところに行きたいと思いますよね。と僕も思います。博物館に行けば確かにたくさん日本の文物はあるのですが、西洋式に並べてあるために、その良さが半減しているんです。

なので、ぜひ、日本の文物を見せるための、畳で鑑賞する「日本文化美術館」を、ぜひ、国に作っていただきたいと思います。ついでに言えば、漫画アニメ美術館も早く実現して欲しいと思います。海外の皆さんと話をすれば、口を開ければアニメの話です。

こういうことは、海外の観光客の誘致のためと思われがちですが、元来はそうではなく、日本の文化を日本人が改めて考え、正しく評価するための場所として、設置していただきたい。

 

日本人に限らずだとは思いますが、そこにいる人はそこにある文化や産業、自然の真の価値に気がついていません。日本の田舎の秋祭りに外国から来た観光客が大変に喜んでいます。これは、ガイジンだからではなく、外からの客観的に見た目として、正しく評価しているということです。

 

もはや、日本の伝統文化も急速な勢いで失われつつあります。今しっかりと見直さないと、気がついたらなくなっていた。というのは、大変に残念です。たぶん、そういうものもたくさんにあると思います。淘汰されるべくして淘汰されるという意見もあるかと思いますが、経済合理性の中で、「何が淘汰されているのか」冷静に考える必要があると思います。

 

帰りがけ、小林先生のお弟子さんたちがワイワイとやっていました。そこには英語が飛び交い、まさにグローバルがこの盆栽園の中にあり、かつ、海外の人がBONSAI文化を正しく評価し、楽しんでいるんだと思いました。

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