今年一年を振り返って、ちょっと気になった展覧会が二つありました。内容というよりは、展覧会のあり方についてですが、一つは、東京都美術館で開催されていた「ボストン美術館展」今日はそれについて。長文です。お暇な方はどうぞ。

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東京都美術館の「ボストン美術館展」

 

平治物語絵巻が何十年かぶりに日本に来ていて、チラシのメインビジュアルもこれなので、これを、目当てに訪れた美術愛好家の皆さんも多かったと思います。

 

平治物語絵巻の部屋というのがあって、入るとすぐに女の人の声で、アナウンス。「列に並ばないでください。」僕は、前列で見たいので、列に並んでいると、年配の女性が来て、アナウンス通り、列に並ばないで後ろから見ていると、全く見えないので、結局列に並ぶことに。当たり前の話ですが、前に人がいると、絵巻は下にあるので、ほとんど見えません。割り込めば別ですが。

 

次のアナウンスは、「立ち止まらないでください。少しずつ移動お願いいたします」。それから、「2階にも作品はありますから、2階の作品をご覧ください。」

これを、2人の女性が右後ろからと、左後ろからと、1人が30秒ごとくらいに連呼するのです。なので、アナウンスは15秒に一回くらいの割合で。(正確ではありませんが、そのくらいの感じでした。もっと多かったような気もしますが。)したがって、その部屋で絵を見ている間中に同じアナウンスが何十回と繰り返されるわけです。

そっと話しかけるというより、かなりのボリュームで連呼します。

 

僕もいい加減うるさくなりましたが、彼女たちは、上からの指示で動いているだろうから、部屋から出てから都美館に電話をして、運営責任者の方を呼んでいただいて、その旨を丁寧にお伝えしました。「少しボリュームを下げて、連呼しないで欲しい。作品を見に来たのに、静かに落ち着いて観ることができない。」と。

そしたら、女性の方でしたが、「昼の打ち合わせで、少しボリュームを落とすようにスタッフの皆さんと打ち合わせをしたところなんですが。わかりました。」とのことでした。

 

 

「ああ、言って良かったなあ」と、2階と3階の展示を見た後に、もう一度、落ち着いて平治物語絵巻を観て帰ろうとその部屋に戻りました。苦情を言った直後だから、その場限りでも、少しは変わっているかと。

 

 

全く一緒でした。逆にパワーアップしたかも。

同じボリュウムで、同じ間隔でスタッフの人が、先のセリフを連呼してました。

まあ、もうしょうがないかと、諦めて帰ろうとしました。そしたら、隣にいた年配の女性が、スタッフに注意してました。「あなたたちの声が気に障って、作品が落ち着いて観られない。」

僕も隣で、思わず「そうですよね。」

で、また、いったん踊り場に出て、都美館に電話をしました。「全然変わったないんですけど、とりあえず、あなた自身の耳で聞いてください。」

その責任者という方を呼んで、会場で一緒に聞いてもらいました。「これは、芸術を見る環境ですか?」

彼女もいろいろと、おっしゃってました。人が立ち止まると、みんなが見れないからとか、なんとか。

 

百歩譲って、「立ち止まらないでください。」はアナウンスがあっても良いけど、

「列に並ばないでください。」のアナウンスはまるで必要ないし、(並ばないと観られないので。割り込みするなら別ですが)

2階に作品があるというアナウンスもまったく不要です。それだけでも三分の一に減らせるし、2人で連呼しないで、1人が、立ち止まっている人の後ろで、アナウンスすれば6分の1に減ります。

さらに言えば、それらは、列に並ぶあたりに、電光掲示板のようなものを立てて掲示すれば良いし、あるいは、会場に入る前にお客さんに伝えることで、見ているときに連呼するものではないのでは。

それらも、伝えましたが、「はあ」という感じでした。僕としても、作品を見るときに10秒おきくらいに、後ろで連呼している展覧会は初めてだったので、「あなたは展覧会とか観に行かれたことがありますか?」と、失礼なことを聞きましたが。「観に行ったことあります。」とおっしゃってました。ということは、常に行っているような人ではない。つまり、運営のプロかもしれないけど、展覧会鑑賞とかあまりしない、あるいは、美術作品とかにあまり興味のない方なんだろうなと思いました。違ってたら申し訳ないけど、あの状況を放置するのであれば、1日の観客数を増やして経営的なことを優先せざる得ない状況に置かれて、しかたなくやっているか、展覧会を観る環境を知らない人、美術のシロウトか、どちらかということになります。

 

実際に会場はそんなに混雑しているほどでもありませんでしたし、現在は、このような大きな企画展示は、そのために入場制限をして、予約制になっているので、会場に人を入れなければ良いわけです。人が混雑してアナウンスを連呼しなければならない状況は、予約制の意味が全くありません。

後にも先にも、あんなにうるさいアナウンスをしている展覧会は初めてだったし、都美館も、企画会社に丸投げでやってるんだなあ。鳴物入りで、宣伝して観客を動員して、荒稼ぎすればそれでいいんだろうなと、勝手に想像して、幻滅して帰った展覧会でした。

 

美術館も収益や観客動員求められます。また、他の自治体の美術館も同様な流れに置かれているのかもしれません。

 

その数値を達成するために、観客動員できる展覧会を、業者から買ってきて展覧会を打たなければならない苦しい思いもあるのかもしれません。これも勝手な想像ですが。

なので、会場に観客がまばらにしかいないけど、良い展覧会をやってる美術館を一概に素晴らしいという気はありません。

 

内容も良くて、たくさん観客が訪れて、でも、訪れた観客が落ち着いて作品を鑑賞できる環境を作るというのは、なかなか難しいことかもしれませんが、やはり、芸術鑑賞の環境をどう確保するかは、美術館の大切な使命だと思います。

 

展覧会で素晴らしい作品は見たけど、アナウンスがうるさすぎて、スタッフに注意をしないといけなかった。なんて状況は避けて欲しいと、一観客として、切に願うところです。僕も、せっかく楽しみに観に行った作品の印象より、こんなことの方が頭に残っているし、隣でスタッフに注意していた高齢の女性も、同じ思いだったと思います。

 

ということで、ぼくがここでぼやいていても、東京都美術館の展覧会は変わらないかもしれませんが、東京都美術館だけの問題ではなく、自分自身の問題としても、考えるきっかけとして、ここに掲載させていただきました。