オランダでもギリシャでもクロアチアでもスペインでも、さらにはイングランドでも人々は意地悪な行為に快楽を覚えるようだ。これらの国々は、リヨン(以下OL)とマルセイユ(以下OM)が八百長を働いたといちゃもんをつけ、チャンピオンズ・リーグ(以下CL)の決勝トーナメント進出を認めるべきではないと主張している。
グループステージ最終節を前に、OLとOMが瀬戸際まで追い詰められていたのは事実である。彼らのベスト16入りを期待し、奇跡を信じていたのは、おそらく筋金入りのサポーターぐらいだったろう。
事実、フランス国内ではOLやOMよりもむしろ、リールが勝ち抜けるか否かに注目が集まっていた。グループ3位につけていたリールは、1ポイント上回る2位トラブゾンスポルとの直接対決を制すれば、グループステージ突破が決まる状況にあった。ところが、フランス王者はホームでスコアレスドローに終わり、最下位に転落。16強どころか、ヨーロッパリーグへの出場権すら逃してしまう(グループ3位のチームはヨーロッパリーグに回る)。これに対し、決勝トーナメント行きは困難と思われていたOLとOMが揃ってそれを覆したのだから、勝負事というのは何が起きるかわからない。
OLとOMは、どれほど困難な状況からベスト16入りを果たしたのか。まずは最終節を前に、両チームが置かれていた立場を把握しておく必要があるだろう。

まずOMは、3位オリンピアコスに、勝点1差の2位につけていたものの、ドイツ王者ボルシア・ドルトムントと敵地で戦うという難しい試合を残していた。すでに1位抜けが確定し、いわば消化試合に臨むアーセナルをホームに迎えるオリンピアコスのほうが、優位な立場にあったのは間違いない。
OMよりもはるかに厳しい状況にあったのが、3位で最終節を迎えたOLだった。敵地でディナモ・ザグレブを下し、なおかつ2位のアヤックス・アムステルダムがレアル・マドリーに負けることが前提条件。それに加えて、アヤックスとの得失点差「7」を逆転する必要があった。つまり、ほぼ絶望的な状況であり、勝ち抜けの可能性は1パーセントか2パーセントくらいのものだったのだ。
そうしたシチュエーションのなか、OMは3―2で勝利を収める。一方のOLは7―1と大勝し、しかも当該のアヤックスがマドリーに0―3と敗北。いずれも実現困難と思われた「ミッション・インポッシブル」を見事に成し遂げ、ベスト16の切符を手に入れたのだった。
両チームの勝利がよりドラマ性を帯びたのは、前半を終えた段階ではどちらも望み薄な状況だったからだろう。OMは2点を先行され、前半終了間際になんとか1点差まで詰め寄ったという状況。OLも同じく先制を許し、44分に同点に追いつくという苦しい展開を強いられていた。両チームはそんな苦境から美しいエンディングを迎えることに成功したのだ。
OMは85分に同点に追いつくと、その2分後にマテュー・ヴァルビュエナの逆転弾が火を噴く。これに対してOLは、怒濤のゴールショーを披露。47分のマクシム・ゴナロンのゴールを皮切りに、後半だけでネットを六度揺らし、奇跡を起こしたのだった。

OLのジャン=ミシェル・オラス会長は、ザグレブで熱い涙をこぼした。このミラクルな勝利は、2000年代のリーグ・アン7連覇、09―10シーズンのCL4強入りといったクラブの金字塔に匹敵する歴史的快挙と言っていい。2011年12月7日は、きっとOLにとって忘れ難い日となるだろう。
これでOLは、9シーズン連続でベスト16入りしたことになる。本選のレギュレーションが現行のそれに改定された03―04シーズン以降、継続的に16強入りを果たしているのは、他にアーセナル、チェルシー、マドリーの3チームしかない。言ってみればOLは、エリート中のエリートのなかに名を連ねているわけだ。
もはやOLの時代は終わったと、多くの人が墓前に花を献じようと準備していたところへ、彼らはみずからの力でまだ死んでいないことを証明してみせたのだ。
しかし、この歴史的勝利に水を差すような論争が、直後に周辺諸国で巻き起こる。すでにグループステージ敗退が決まっていたD・ザグレブを、OLが買収したのではないかという疑惑が持ち上がったのだ。大逆転でベスト16入りを果たした快挙を褒め称えるどころか、その勝利の正当性を疑う声が、他の欧州諸国から上がったのである。
最初にピストルを抜いたのはスペイン・メディアだった。試合のいくつかのシーンを映像で流し、八百長の疑いがあると主張。とくにFWバフェティンビ・ゴミスが、D・ザグレブのDFドマゴイ・ヴィダにウインクをしたかのようにも見える場面を繰り返し流し、OLの不正行為を強く訴えたのだった。
さらにオランダでは、OLにベスト16入りの権利を奪われたアヤックスが、UEFAに対してザグレブでの試合を調査するように要請。加えて、0―3で敗れたマドリー戦を裁いた審判団も調査するように求めた。彼らの主張によると、主審とふたりの副審はいずれもマドリーのジョゼ・モウリーニョ監督と同じポルトガル人であり、彼らの不当なジャッジによって、アヤックスはふたつのゴールを取り消されたという。
オラス会長の行動も、疑惑に拍車をかけた。OLの敏腕会長はD・ザグレブ戦の前夜に、親交の深いマドリーのフロンティーノ・ペレス会長にSMS(携帯電話のメール)を送り、アヤックス戦は本気で勝ちにいってほしいと頼んでいたのだ。すでに全勝で首位通過を決めていたマドリにとって、アヤックス戦はいわば消化試合。負けたところでなんの影響もないため、控え選手や若手主体の編成で臨むことも考えられたのだ。
OLとD・ザグレブの関係も八百長説に信憑性を持たせる一因となった。D・ザグレブのエクゼクティブマネージャーを務めるズドラフコ・マミッチの息子マリオは、同クラブの選手やOBを多く顧客に持つ代理人。OLのクロアチア代表DFデヤン・ロブレンも顧客のひとりであり、両クラブにパイプを持つこのエージェントが双方の間を取り持ったというのだ。想像の域を出ない話だが、こうした状況では疑惑が疑惑を呼び、いつのまにか大きな嫌疑に発展することもある。
いまやひとつの書き込みや情報が、ツイッターなどを通じて瞬く間に世界中に広がる時代。たとえ事実無根のニュースでも、それが恐ろしいスピードで地球を駆け巡り、人々にさも真実であるかのように思わせる。マニピュレーション(情報操作、心理操作)が容易にできる恐ろしい時代なのだ。

7―1というスコアや、そのドラマチックな展開を考えれば、人々が疑惑を抱くのも理解できなくはない。しかし、それにしても、諸外国の反応はいささか過剰すぎやしないだろうか。わたしには、単なる言いがかりとしか思えない。フランス人だからといって、OLの肩を持つわけではない。状況証拠を並べたところで説得力に乏しいし、そもそもフットボールではあらゆることが起こりうるのだ。
人々がスタジアムに足を運ぶのは、意外性のあるドラマや想像を越えたスペクタクルを目にしたいからだろう。ミラクルや奇想天外な展開、予想外の結末といったものが、フットボールの持つ大きな魅力であり、醍醐味であるはずだ。そういった要素を否定してしまっては大きな感動など得られまい。想像してみてほしい。ピッチで起きることすべてに説明がつき、あらゆる出来事が予想の範囲内で収まれば、あまりにも味気なくはないか。そんなフットボールを見ても、きっと空虚感しか残らないだろう。
物事を疑ってかかり、たいした根拠もなしに人を疑惑の目で見る風潮は、オンライン・カジノが広く普及し、だれでも手軽に試合に賭けられるようになったことと無関係ではないはずだ。人は金銭的利害が絡むと、疑心暗鬼になったり、予想外の出来事を受け入れにくくなる。八百長を働いていたなどと安易に疑いを抱くのは、それだけ気持ちが荒んでいるからなのだ。フットボールを信じ、この美しいスポーツを守りつづけていくには、OLとOMが起こした奇跡を素直に称賛できる素直さや心のゆとりが必要だろう。疑念や否定からは何も生まれない。我々はそれを肝に銘じるべきである。
間違った見方をせず、土壇場の87分に惚れ惚れするような一撃を叩き込んだヴァルビュエナや、ザグレブの地でクワドリュプレ(1試合4ゴール)を達成したゴミスのようなヒーローを、大いに称えるべきなのだ。CLでの1試合4ゴールは、元ACミランのマルコ・ファン・バステンや、マンチェスター・ユナイテッド時代のルート・ファン・ニステルローイ(現マラガ)、リオネル・メッシなど、過去に6人しか成し遂げていない快挙。それを否定してかかってみるのは寂しすぎる。
フットボールにはミラクルがつきものだし、ピッチではときに狂喜じみたことが起きる。だからこそ我々はこのスポーツに魅了されるのであり、それがフットボールの気高さでもあるのだ。フランスのふたつのクラブは、まさにそれをもたらしたわけで、賛辞を浴びこそすれ、批判される言われではないはずだ。
補足の意味で、OLが戦ったD・ザグレブについて少し説明しておいたほうがいいかもしれない。6戦全敗と見るも無惨な結果に終わったが、とりわけディフェンスは酷かった。6試合で喫した失点は合計22。これはCLのワーストレコードだ。つまり、1試合に7点取られても不思議ではないチームだったのだ。
むしろ不思議なのは、このクロアチア王者が5節のマドリー戦で6失点を喫した時には、誰も疑惑の声をあげなかったことだ。本国クロアチアでも、スペインでも、オランダでも、そしてフランスでも事実は事実として受け止められ、論争の種になるようなことはなかった。もちろん、マドリーの攻撃力がOLのそれを上回っているのは承知している。だが、すでに4節にベスト16入りを決めていたマドリーに比べ、最終節のOLがはるかに大きな意欲と気概をもって試合に臨んでいたのもまた事実なのだ。
いずれにせよ、フランスは作シーズンに続き、2チームを決勝トーナメントに送り込むこととなった。3チームが16強入りしたイタリアには劣るが、ドイツ、イングランド、スペイン、ロシアと同数。おそらくこれで、ポルトガルに脅かされていたUEFAのリーグランキング5位の座を守れるはずだ。
OLとOMは、最後の最後まで望みを失わずに戦い、ミラクルを起こした。大切なのはこれで満足せず、成し遂げた快挙を自信の糧とし、さらなる高みをめざすことだ。最終節で見せた勝利への執念や粘り強さを保ちつづければ、さらに大きなサプライズを起こすことも可能だろう。
いまはまだ陶酔に浸っているかもしれない。だが、浮かれることなく謙虚さをもち続け、2月に始まる決勝トーナメントに備えてもらいたい。奇跡というのは、そう繰り返し起きるものではないのだから。