自民党総裁選挙は、1回目の投票でいずれの候補者も過半数に届かず、決選投票の結果、岸田前政務調査会長が、河野規制改革担当大臣を抑えて新しい総裁に選出されました。

岸田氏は来月4日に国会で行われる総理大臣指名選挙を経て、第100代の総理大臣に就任する見通しです。

 その岸田氏は総裁の公約で「新自由主義からの転換」、「成長と分配の好循環による新たな日本型資本主義の構築」を掲げていました。

 

**新自由主義

「新自由主義」とは、政府部門の縮小や市場競争の導入によって経済社会の効率化や活性化を目指す、一連の理論や運動の総称。

 ↓

①「開放経済」。貿易や投資、人の移動を国境などの垣根を低くして自由化すべき。

②「規制緩和」。あらゆる意味で、政府による経済活動への規制は最小限に抑えるべき。

③「小さな政府」。政府は財政規律を守り、公営企業は民営化してスリム化するべき。

(施光恒『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』(集英社新書 2015年7月22日)129~130頁)

 

 現在まで続く新自由主義路線は小泉(自民党)政権で本格化したので、20年経過したとはいえ同党の総裁候補が方針転換を公約にしたことに驚きました。

 

そして、中間層再興のための分配政策として以下の内容を主張しています。

 

https://kishida.gr.jp/sousaisen/

 

 「株主資本主義」(企業利益の短期化、従業員の賃金抑制や非正規雇用化、下請けへの値下げ圧力などの原因に)からの脱却、少子化の一因になっている所得の改善、社会的に必要だが収益性を上げづらい仕事の賃金改善が読み取れます。

 

 また、岸田氏は「財政健全化」を否定はしていませんが、「単年度主義の弊害是正」で計画的な予算編成に含みを持たせています。

 

 同氏の政策は構造改革以来日本に蔓延した「今だけ、カネだけ、自分だけ」とは対称的です。

 

 以前の記事で書きましたが、日本経済はバブル崩壊のダメージから回復しないなか97年の増税消極財政への転換でデフレに陥り、2001年からの新自由主義路線で「一億総中流」から「格差社会」へと変貌してしました。

 

 岸田氏の公約は20年間以上も続いてしまった政策を180度転換するものと言えます。うまくいけば、日本経済はようやく長期停滞や格差拡大の流れから脱却することができます。

(「デフレ脱却」とは書かれていませんが、新自由主義では消極財政が主張されているのでその転換はデフレ対策にもつながります。また、中間層の拡大及び所得向上も個人消費増加につながるので同様です。)

 

 もっとも、それゆえの懸念もあります。

 

 先ずは岸田氏が腰砕けになる可能性です。同氏は人柄がよいという点もありますが、総裁選で森友学園問題の再調査を「やるとは言ってない」と言い出したこともあります。仮に決選投票になった場合を考慮して安倍氏に配慮したのかもしれませんが。

 

 もう一つは増税消極財政ユニットの壁です。岸田氏の分配施策を実現するためには政府支出を拡大するしかありません。その場合、ほぼ確実に財務省や御用学者から「クニノシャッキンガー」の大合唱が始まるでしょう。それを飲もうとすると増税せざるを得ません。しかし、一年以上も新型コロナウイルスで苦しむ日本でそれはとても難しいでしょう。少なくともまともな人ならそう考えるはずです。そうなると、分配施策を縮小せざるをない・・。

 

 ただ、それでもなお岸田新総裁誕生には大きな意義があると思います。

 

 それは、新自由主義を否定する同氏が自民党の総裁になったことで、日本維新の会以外のすべての政党が反新自由主義になったといえることです。つまり与野党の論戦、政策の出し合いはその新たな流れの中で行われるのです。10年前とは正反対! 

 

 今後、衆院選を見据えて野党がさらなる需要回復策を打ち出すことも考えられます。特に、消費税の減税は与党との違いを一番出せます。現在は「時限的に5%」ですが、例えば「恒久的に5%」になるかもしれません。

 

 日本経済がデフレと格差社会に陥ってから約20年。ようやく悪しき新自由主義からの脱却に希望が見えてきました。