先日、YouTubeでターボがんに関する動画を視聴しました。この動画はイタリアのグループによるターボがんに関する論文を解説しています。
What are turbo cancers? Part 1: IgG4 effect on immune cells (update 136)
「ターボがん」はここ数年で広く知られるようになった用語です。2017年に初めて記述され、2019年に分子的に解明されましたが、医学界ではまだ新しい概念であり、多くの医師に知られていないかもしれません。実際、「『ターボがん』という医学用語はない。デマだ」といった主張も見受けられますが、ターボがんは現実に存在し、「Hyper-Progressive Disease (HPD)」(過剰進行性疾患)として医学的に認識されています。
人体は白血球などの免疫細胞によって守られています。免疫細胞は異物や病原体を攻撃して身体を守ります。一方、がん細胞は異常な成長や増殖をする細胞で、遺伝子の変異や環境因子によって引き起こされます。がん細胞はPD-L1という「免疫チェックポイント」と呼ばれる分子を持ち、これによって免疫細胞からの攻撃を避けます。
がん免疫療法の一つに免疫チェックポイント阻害剤(ICI)があります。これはがん細胞の免疫チェックポイント分子の働きを抑え、免疫細胞の働きを促進します。この療法は画期的で、多くの命を救ってきました。
2013年から2017年にかけて、約150人の肺がん患者に対して、免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療が行われました。そのうち約20%の患者が治癒しましたが、25%の患者は過剰進行性疾患(HPD)で命を落としました。この事象が治療に起因するものなのか自然現象なのか、医療界で議論されました。
研究者はこの原因を分子レベルで解明しようと試みました。ターボがん患者とそうでない患者のがん細胞を観察したところ、マクロファージという免疫細胞に特徴的な違いが見つかりました。
マクロファージはM1型とM2型に分類されます。M1型は炎症や感染時に活動するマクロファージで、緊急の状況で活発に働きます。一方、M2型は炎症が収まった後や組織修復時に活動するマクロファージで、問題を解決するために働きます。
ターボがん患者のがん細胞ではM2型マクロファージが観察され、CD163、CD33、PDL1といったタンパク質を持っていました。この特徴はターボがん患者でより一貫して見られ、非ターボがん患者ではまれであったため、ターボがんの生物学的特徴を区別する手掛かりとなりました。
研究者は次にマウスを用いた実験を行いました。T細胞の免疫機能が欠如したマウスにH460という肺がん細胞を移植し、抗PD-1抗体を投与したところ、ターボがん患者で観察された過剰進行性疾患の現象が再現されました。
さらに、抗PD-1抗体のFcフラグメントに着目しました。抗体はY字型で、上半分のFabフラグメントは抗原に結合し、下半分のFcフラグメントは免疫細胞に結合します。そこで、抗PD-1抗体を切断し、Fabフラグメントのみを使用して実験を行ったところ、過剰進行性疾患の現象は再現されませんでした。これにより、Fcフラグメントが過剰進行性疾患を誘発する鍵であることが示唆されました。
研究では、B細胞やT細胞の免疫機能が欠如したマウスを用いてさらに詳細な実験が行われました。また、肺がん細胞株のPC9に加えて、がん患者から採取された生体組織であるPDX302、PDX305、PDX111、PDX220も用いられました。その結果、PC9とPDX302ではターボがんが誘発されましたが、PDX305とPDX220では誘発されませんでした。PDX111は中間的な結果を示しました。これにより、ターボがんを引き起こす可能性のある危険な遺伝的要因が明らかになりました。また、一部の肺がん細胞株では、がん細胞が移植された部位で大幅な増加が計測されました。さらに、分子レベルでの検証も行われ、マウスの腫瘍組織にはM2型マクロファージが浸潤していることが明らかになりました。
研究により、特殊なM2型マクロファージがターボがんの環境に存在し、抗体分子のFcフラグメントがターボがんの発症に関与していることが明らかになりました。この発見の重要性は、ターボがん・過剰進行性疾患を引き起こした免疫チェックポイント阻害剤がIgG4系であることによります。
免疫グロブリンG(IgG)は免疫系で重要な役割を果たすタンパク質の一種であり、その中のIgG4は自己免疫疾患や過剰なアレルギー反応を抑制する役割を持っています。論文の著者らは、IgG4抗体のFcフラグメントが腫瘍内のM2型マクロファージの受容体に結合することで、ターボがんが引き起こされる可能性があると提唱しています。
最後に、別の研究でmRNAワクチン接種後にIgG4抗体が増加することが知られていますが、接種したからといって必ずしもターボがんになるわけではありません。ターボがんの発症には以下の複数の要素が関与します:
- がんの存在
- 血中IgG4抗体の高値
- 特定の遺伝的素因
また、mRNAワクチン接種とターボがんの関連性については、さらなる研究が必要です。
