ここで、出版社への不満が大きくなった辛子さん。そもそも出版社が上手いことアタシを売り出してくれればこんなに苦労することはなかった。3か月のど素人にレギュラー番組を斡旋するのも気に入らない。文章も全然書けないようなひよっこにライターヅラさせてんじゃねぇよ…。良し、ひとつここはガツンと文句言ってやろう。「このままの扱いが続くなら、フリーになっても良いんだぞ」くらいの脅し文句を言ったってバチは当たらないだろう。どんどん黒い思いに蝕まれていく辛子さん。翌日出版社に連絡をし、「編集長と話がある」と伝えます。

 

そして会議室で、現状の扱いへの不満をぶちまけると共に、「フリーになるぞ。ライバル誌に移籍するぞ!!」と脅しにかかります。が、編集長から返ってきたのは想定外の言葉。

 

編集長「うん、そうした方が、お互いのために良いかも。正直、紅鮭さんの評判、今社内ですげぇ悪いからねぇ…」

 

そうなのです。最近の辛子さんはSNSに腐心するあまり、通常の仕事の締め切りをぶっちぎることもしばしば。挙句、自分のブログで綴った原稿をそのままコピペして提出してくることも1回や2回ではありませんでした。出版社からしてみれば、「SNSなんかやってる暇あったら、締切守れや!」と言うのは当然であり、塩子がどうのとかそういうのは心底どうでも良いのです。

 

辛子「そうですか! そういうつもりならわかりました!! もうイイですッ!!

 

自分から「辞める」のカードを切ってしまった以上、もう後には引けません。まぁ出版社はここだけじゃないし、どこかの代理店と契約すればイベントは細々とできるハズ。そして次の雑誌でひと花咲かせてやる! とばかりに家に帰り、「雑誌辞めてきました!!」とブログに書き込みます。

 

「ギャラの問題じゃない!」

「このままあの出版社に飼い殺しにされるわけにはいかない!」

「あの出版社は不誠実すぎる!!

 

自分の不誠実さは棚に上げ、出版社に対する呪詛の言葉をつらつらと書き綴ります。こういう時、周囲の人は完全に対岸の火事なので

 

「頑張って!」

「これはピンチじゃなくチャンス!」

「たしかにあの出版社の評判は良くない!」

「中堅どころを大事にしない出版社に未来があるわけがない!」

「辛子さんならどこへ行ってもやっていけますよ!」

 

といった、無責任にもほどがある言葉で辛子さんを後押しします。「揉め事だ!」と物見遊山でブログを見に来る人も多く、アクセス数は一挙に上昇。「皆に支持されている!」と勘違いした辛子さんは、物凄く間違った手応えを感じてしまったのでありました。

 

その後、いくつかの出版社や編集プロダクションに売り込むのですが、出版社や編プロも馬鹿じゃありません。これまでの評判なんかを総合的に判断すると、採用してもあまり良いことはなさそう。これが20代前半のカワイイお嬢ちゃんならともかく、多少トウが立った人を採用してもねぇ…。前の職場を辞める時にブログで捨て台詞吐くような人だし、触らぬ神に祟りなしかも…。結果、ライターとしては新台紹介をちょぼちょぼやってる携帯サイトで月イチ連載を持つくらいしか仕事はもらえず、露出が減ったことでイベントオファーもあまり来ず。最終的にコーヒーレディとして生計を立てることになったそうです。

 

それでもブログのタイトルを「紅鮭辛子のパチンコ生活」から「アラサー女子の婚活生活」に変えて、そっち方面でひと山当てよう、と目論む辛子さんなのでありました。

そんなこんなで、辛子さんはとにかく「セルフプロデュース」に躍起になります。ブログを開設して毎日コメントを返し、ツイッターでは朝ごはんからホールの外観、今日打つ機種の写真などをこまめにアップ。FACEBOOKでは知り合いだけでなく、会ったことのないライターにまで友達申請をガンガン出して、「私がこんだけいいねしてるんだから、お前もいいねを押せ!」とばかりに、記事の内容を問わずガンガン「いいね!」ボタンを連打。その良し悪しはともかくとして、「タダでできることは何でもやろう」とばかりにSNSを駆使する姿はある意味立派ではあります。

 

とは言え、それらが直接的に仕事のオファーに繋がるか、と言うとそれはまた別の話。知名度アップには若干貢献するかもしれませんが、逆に言うとその程度の効果しか見込めないわけで。辛子さんが1時間かけてアップしたブログには5件くらいのコメントが書き込まれるのに対し、塩子さんが「晩ごはんです!」みたいな文章と共に牛丼の写真1枚アップしただけで、「美味しそう!」「野菜もちゃんと食べて!」「俺も明日同じ店で食べます!」「今度一緒に行こう!」みたいなコメントが50件くらい書き込まれる状況。結局、「SNSを一生懸命頑張って人気者になろう」という考え方は決して不正解ではないものの、「人気者がSNSをやる」と比べてしまうとあまりに効率の悪い話になってしまうのです。当たり前と言えば当たり前なのですが。

 

そこで今度は、「人気者と一緒に写真に写ろう」という作戦を立てた辛子さん。塩子さんがパチンコを打っている場所を聞き出し、「カワイイ後輩、塩子と一緒でーす」みたいな写真をツイッターやFACEBOOKにタグ付けしてバンバン上げます。そうすると塩子さんのフォロアーがバンバンリツイートしたり、「いいね!」を押してくれる。「仲良さそうでうらやましー」みたいなコメントも付くようになり、なかなか効果は上々です。

 

しかししかし、それも長くは続きません。本当に仲が良い後輩ならともかく、あからさまな売名目的で近寄っているわけですし、それに塩子さんが気づかぬほど鈍感でもありませんでした。さらに塩子さんが「今日はお化粧してないからマスクと帽子で顔隠してるんで、写真は勘弁してください」と言った日も「全然大丈夫、すっぴんでもカワイイから!」と強引にマスクを剥がして撮影し、「激レア! 塩子ちゃんのすっぴん写真!」なんて文言でツイートしたのだから、さあ大変。フォロアーは基本「すっぴんでもカワイイ」みたいな反応をしてくれるとは言え、だから許されるという話にはなりません。辛子さんのLINEは徐々に既読スルーされるようになり、出版社からも「塩子が迷惑しているみたいだから、まとわりつくのをヤメろ」と苦情が入ります。


以下、次号


前回はちょっと昔の話を書いたのですが、今回は結構最近の話。

 

今回の主人公は紅鮭辛子さん(仮名)。パチンコ好きが高じてコーヒーレディからパチンコ屋の店員になり、パチンコ雑誌の出版社へ履歴書を送って採用される…という、結構オーソドックスにライターになった、27歳の女子であります。

 

採用されたのは3年前で、そこそこのルックスだったこともあり、デビュー当初は「あの子カワイイね」なんてネットに書き込まれる程度に注目されたのですが、さほど大きなイノベーションもないまま現在に至る…といった感じ。一応月2回程度の雑誌の仕事に加えてイベントゲストを月に1~2本やっており、収入的には一般的なOLに毛が生えたくらいは受け取っています。

 

とはいえ、CSなどのパチンコ番組に出ているようなライターに比べると、やはり小物感は否めない。そういう番組自体のギャラは大して高くないらしいのですが、「レギュラー番組がある」という事実はかなりそのライターに箔をつけるので、イベント出演のギャラなどを釣り上げるきっかけにはなるそうです。そして、イベント出演のオファーも多く舞い込むようになるため、収入が一段階上がる、と。辛子さんはそこを目指しているのですが、いかんせんそのチャンスが訪れません。加えて、ルックスの劣化も気になりだすお年頃だし、女性新人ライターの弾頭も気が気じゃない。特に後輩の鯖元塩子(仮名)という新人ライターは「アイドルでもやっていけるくらいカワイイ!!」と一躍話題となり、デビュー3か月にしてCS番組にアシスタントとしてレギュラー出演するなど大活躍。辛子さんは日々将来的な不安に悩まされる…という状況です。

 

あくまで著者の勝手な感想なのですが、女性ライターというのは「見た目95%、文章力5%」と言って良いくらい見た目が重要。もちろん文章力があった方が良いことは確かですが、「この子の書く文章、スゲェ面白い!」といった具合に有名になった女性ライターというのを私は聞いたことがありません。ましてやパチンコ雑誌の読者層は圧倒的に男性の方が多く、「カワイイ=ジャスティス」みたいな風潮が根強く残っています。見た目がイマイチの子がどれだけ止め打ちや釘の良し悪しを解説しようが、カワイイ子が「当たりましたー」とはしゃいでいる写真1枚に敵わないのです。


以下、次号。