ダンシャリアンシリーズは「小説を読もう」に加筆修正してUPしています。
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息子と話しました。でも今でもよくわからないです

 新道るいはそれとなく蒲谷とし美に、あれからどうなったのかメールを送ってみた。レッスンのやり取りで一度使っているアドレスなので、難なくとし美に届く。

どうなさるおつもりでしょうか?”

今ミニマストの本を読んでいるのですが、安心します。別にあの子はおかしいんじゃないってわかります

 とし美は元来真面目な性格らしく、一日本ばかり読んでいると言った。今では、ミニマリストのブログも読んでいるらしい。


あの子を信じます


 新道るいは息をつく。とし美がそう納得して決めたのだ。自分からどうこう言う問題ではない。ただ、無理に「そちら側」の意識を理解しようと必死になっているとし美は健気で切ない。

また何かありましたら遠慮なくご相談ください。一度レッスンを受けていただければ、私の生徒ですから



 なぜこんなにも自分はとし美に気を取られてしまうのだろう。必死で不器用な姿がかつての自分と重なるからか。周りからどう見えるかなど気にもしないで、若い女性に混じって真剣な眼差しでメモを取るとし美の姿が頭から離れない。


「もうほんっと信じらんないですよ」

 昼休み、連れ立ってランチに行っていた市川沙蘭と佐川太一がオフィスに戻ってきた。

「何、市川さん。そんな大きな声出して」

 市川沙蘭は23歳という若さに似合って、どんな感情でもあっけらかんと表に出す。つくづく新道るいは自分も歳をとったなと感じた。


「どうやら彼氏、ミニマリストだったみたいですよ」


 佐川太一は笑いをかみ殺していた。

「違いますよ、佐川さん。彼氏じゃないです。彼氏候補ね。いやもう過去の話ですけど」

「ミニマリストの何がダメなの?

 新道るいはたった今とし美のことを考えていたゆえ、過剰に反応してしまう。

「そこまで徹底的でもないんですけど、冷蔵庫はありましたし。でもテレビなくて、その理由が、日本の電化製品って性能いいんだけど見た目がちょっと、だからだって。そんでテレビ見ないのかよって思ったら、見るんですよ。ワンセグでこーんなちっちゃなスマホの画面ですよ。勘弁しろよ。だったらテレビ買えよっ、って話ですよ」

「もう笑うなぁ、その話。じゃあそいつの家は最低限の電化製品はあるんだね」

「あと、洗濯機はないですけどね。ビーズクッションっていうんですか、おっきくて形が変わるやつ。それにベッドと布団さえあれば生活するのに充分なんだよとか言うくせに、洋服はたんまり持ってるんです。なんか中途半端すぎてそれも気持ち悪いっていうか。
絶対あれ、ブログ読みあさってるエセミニマリストですよ。ちょっときれい好きなの、大げさにアピールしたいだけなんですよ」

 市川沙蘭はそれでも本気でその男とどうにかなろうとしていたのか、怒りは収まりそうもない。


「テレビ捨てるのはいいけど、ちょっと困ってるって、ウケるなぁ」

 佐川太一は完全に面白がっていた。

「別に主張とか全然ないんすよ。テレビも買う金ないだけだと思うんですよねー。ああいう男ってやたらいいスペックの欲しがるから」

 主張、か。新道るいは改めてとし美から見せてもらった写真を思い起こす。あの部屋は本物だった。


 ミニマリストと言っても様々で、便利な生活を一切捨てて田舎暮らしのようなことをするものから、便利な街にいながらその特徴を最大限に生かして余計なものをどんどん削っていこうというもの、自分に必要なものだけをとことん追求し、それ以上のものを持たないと決めるものなどがある。
 新道るいの片付けの考え方においては、自分を見つめなおし、周りにある余計なものを知るという意味でやや重なるところはある。
 ただ、るいは無駄が何もないことがベストだとは思わない。
 人それぞれに快適なものの量や空間があるはずで、一度それを知ってしまえば、他のあらゆることでも整理上手になれる、とそう思っているだけだ。
 人は迷う。
 他人のことばかり気になっているうちは見誤ることも多く、現状でなぜ満足できないのかとさらに迷走する。


 ただ、捨てることは心地がいい。だからその中毒に侵されると今度は捨てるものがないと悩み始めてしまう。これは決して整理とは言えない。捨てることは、整理とは似て非なるものだ。

「でもま、付き合う前にわかって良かった」
 市川沙蘭は納得したように席に着いた。るいは気持ちが波打つのを感じる。


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