兵士と“コンピュータおたく”――未来の戦争を戦うのは誰か
Computerworld 9月2日(日)10時20分配信
先日、情報セキュリティの話題を取り扱うInfosec Islandサイトに、セキュリティ専門家であるピエルイージ・パガニーニ(Pierluigi Paganini)氏による「米国がサイバー攻撃(の使用)を認める:戦争の未来」と題された記事が掲載された。
この記事でパガニーニ氏は、米海軍中将のリチャード・P・ミルズ氏がアフガニスタンにおける戦闘について語った次の言葉を引用している。
「2010年のアフガニスタンにおける従軍経験から、サイバー作戦を実行することで、敵国に対して大きな影響を与えられると言うことができる。わたしは敵国のネットワークに侵入して指揮命令系統に介入することで、こちらの作戦に影響を与えようとする絶え間ないサイバー攻撃に対する防御ができた」(ミルズ氏)
パガニーニ氏は、これは米国がサイバー攻撃やサイバー兵器の存在を初めて公に認めた発言であり、そこには米軍内の「サイバー部隊」の関与も想像できると述べている。そのうえで同氏は、銃や爆弾、ミサイルといった従来型の兵器と異なり“見えにくい”攻撃ができるサイバー兵器は、従来型兵器と同等の威力を持つようになり、その役割はますます重要なものとなると結論づけている。
しかしながらサイバー戦争の専門家たちは、未来の戦争においてサイバー攻撃の能力が極めて重要になることには同意するものの、従来型兵器に取って代わることはないだろうと主張している。
米国の法律事務所ZwillGen所属の弁護士で、サイバー戦争における官民の役割についての専門家であるマーク・ツイリンガー(Marc Zwillinger)氏は、ミルズ氏の発言が、実戦におけるサイバー兵器の使用を公的に認めたものだという見方には同意する。
しかしツイリンガー氏は、「戦時にサイバー兵器が使われたことを認めることと、『Stuxnet』のような秘密作戦の存在を認めることには違いがあると考える」と述べる。「その違いを言い換えると、戦争中には大口径の武器を使うと公に認めることと、秘密裏に行われる暗殺計画の存在を認めることとの違いである」(同氏)。
また、米国Red Branch Law & Consultingの設立者で、米国土安全保障省の前政策担当副次官補を務めたポール・ローゼンツバイク(Paul Rosenzweig)氏は、性質的な違いだけでなく、法的な違いも同時にあることを指摘する。
「これは米軍による『Title 10』行動と、CIA(米中央情報局)による『Title 50』行動の違いだ。同じ手段を使ったとしても、誰が、何を、いつ、どこで、どのように、その手段を使うのかがまったく異なる」(ローゼンツバイク氏)。さらに同氏は、「少なくとも(1990年台後半の)コソボ紛争以降」米国は戦場においてサイバー兵器を使用してきたと付け加えた。
もちろん、比較的新しい兵器システムと同じように、サイバー攻撃の(国際的な)交戦規則(ROE:Rules of Engagement)や有効性についても疑問がある。パガニーニ氏は、「現在のところ、法的あるいは公的にサイバー兵器を定義づける文言は存在しない。そしてどの政府も、サイバー作戦に対するあらゆる種類の処罰を回避しようと必死になっている。」と記している。
これについてローゼンツバイク氏は、すでに交戦規則は存在しており、「なおかつ(サイバー攻撃にも)うまく対応している。新しい交戦規則を策定するとすれば、誰がそれを定義するのか、交戦規則どおりだとどのように確認するのか、といった複雑で解決困難な問題を引き起こすだけだ」と述べる。
しかし、ツイリンガー氏は、この問題についての検討は間違いなく行われていると述べる。「サイバー攻撃が交戦規則に適合するかどうか、軍は長きにわたって調査に時間を費やし、軍幹部たちは検討を行ってきた」(同氏)。
サイバー兵器の実戦使用についての懸念よりも、サイバー兵器が国家のコントロール下から逸脱し、さらには“国家に対して”使われることの懸念のほうが大きいだろう。「もしも国家が(サイバー兵器の)システムをコントロールできなくなったら何が起きるだろうか。そのサイバー兵器は、敵から我々を守ってくれるのだろうか」(ツイリンガー氏)
ローゼンツバイク氏は、そうしたリスクは現実のものとなっていることを認める。「(敵国の)攻撃に対する抑止力としての攻撃能力として(サイバー兵器を)保有するのは良い。だが一方で、(米国は)世界の中で最も“つながっている国”(※訳注:ネットワーク普及率の高い国)であるがゆえに、周到な計画に基づく攻撃でも不注意による同士打ちでも、どちらについても同時に最も脆弱な国とも言えるのだ」(同氏)。
ツイリンガー氏は、(サイバー兵器の)危険性は従来の武器と変わりないという。「プレデター無人偵察機のような精密兵器ですら、市民の巻き添え被害を引き起こす。ほかの兵器とまったく同じように、サイバー兵器は巻き添え被害を最小限に抑えるように設計、実装しなければならない」(同氏)。
ローゼンツバイク氏、ツイリンガー氏の両名とも、サイバー兵器は未来の戦争において重要な要素となるが、従来の兵器に取って代わるものとはならないだろうと結論づける。
ツイリンガー氏は、「敵のシステムにウイルスを侵入させるという攻撃は、敵のトラックのガソリン・タンクに砂糖を入れたり、敵の暗号化通信を解読したりすることと基本的には変わらない。同じ事を、より新しい方法でやっているだけだ」と述べる。
「しかし、従来の武器弾薬やコミュニケーション手段も消え失せたりはしない。例えば、我々の多くはまだ、停電に備えて「Verizon FiOS」(※訳注:電話やテレビ放送を光ファイバ経由で提供するVerizonのサービス)ではなく有線の固定電話を使っている。もしも我々(米国)や敵国が、完全にコンピュータ・コントロールされた武器やコミュニケーション手段がサイバー攻撃に対して脆弱であることを知れば、サイバー兵器“だけ”を保有するというのはばかげていると気付くだろう」(ツイリンガー氏)
(Taylor Armerding/CSO米国版)