取りとめもない夢だった。
高校で出会った友人二人と遊んでいて、とても楽しかったことだけは覚えている。
ぼんやりと意識が浮上してきて、眠い目をこすりまぶたを開けた。
開いた障子から柔らかい風が吹いてくる。
障子の外は畑かなにかのようで、緑の葉が見える。
田舎のおばあちゃん家に来たような雰囲気がある。まあ私のおばあちゃんはこの世には存在していないけど。
硬い枕に硬い敷布団。寝心地としてはいまいちだが、久しぶりにちゃんとしたところで寝れた気がする。
ここはどこだろう。薄い意識の中見た馬に乗った人の家だとは思う。
畑をやっていて、乗馬ができて、田舎に住んでるってどんなおじさんだろう。
優しそうな人だといいな。や、私を拾ってくれたんだ、きっと優しい人だろうな。
腕を使って上半身を起こす。
元気だったときは腹筋だけで起き上がれたのに、今じゃ腕の力も借りなければならないらしい。
断食のような生活で、大分筋肉も落ちたことだろう。
疲れた。起き上がっただけで、もう、この疲労感。五月病や夏バテのようにだるい。
それでも目が覚めてしまったので、とりあえず人を呼ぶことにする。
立ち上がると絶対立ちくらみが起きるので、四つんばいになって動く。
外に突き出た廊下に顔を出す。
「んんっ、すいま、すいませーん。何方かいらっしゃいませんかー」
久しぶりに声を出した。歌うのを止めてから、喉を動かさなかった気がする。
少しして隣の部屋の障子が開き、男の人が姿を現した。
「目が覚めたか」
「ええ、はい、おかげさまで」
出てきたのは左の頬に傷のあるオールバックの着流しを着た男であった。
やくざ。本物に会ったことはないけれど、漫画やアニメに登場する本職の人たちは、
ああやってするどい眼光をしていた気がする。
想像していた人物よりも若く、怖そうな人物が出てきて驚いている。
四つんばいの姿のまま後退し、先ほどまで寝かされていた布団の上に正座した。
すぐに男の人も開いたままの障子から入って、私の前に胡坐をかいた。
胡坐を掻いても背筋が伸びていて、正座しているのに猫背な私とは正反対の人だ。
見習って丸まっていた背中をうんと伸ばす。ああ、この体勢つらい。
「・・・・・・あの、助けていただいてありがとうございます」
「ああ。体調は大丈夫か。朝餉は食べられそうか?」
「あさげ?ええと、はい」
あさげ・・・・・・朝ご飯のことでいいんだよ、ね?
時代劇に出てくるような言葉で少し戸惑う。
暴れん坊○軍とか、剣客○売とか、鬼平○科帳とか、お父さんと一緒になって見てなかったら
この質問答えられなかった気がする。どういう漢字を使うんだろう。
食べられることを確認すると男の人はすぐに下がっていった。
ご飯を用意してくれたということでいいのだろうか。
しばらくしてお盆を持って帰ってきた。お盆に載った小さなお釜からは湯気が立っている。
それを私の前に置くと先ほどと同じように座った。
「すいません。わざわざ、ありがとうございます」
「流石にあんなところで倒れているのを見つけたからな。どうしてあそこで倒れていたのか、聞いていいか?」
「あっはい!」
ぐぎゅるるる
「フッ・・・・・・食べながらでいい」
「すいません、いただきます・・・・・・」
はずかしさで一生寝てしまいたいほどである。
こんなすばらしいタイミングがあろうかというほど良いタイミングで腹の虫が雄たけびをあげた。
釜の蓋を開けるとより一層強い湯気が顔に当たった。
空腹こそが最高の調味料とは言ったもので、おかゆはとてもおいしそうだ。
ふうと息を吹きかけ少し冷ましてから口に入れると、質素ながらしっかりと味付けされており
飲み込むとお腹から温かい感じが広がっていく。
「えと、ですね、あの、私自身どうしてあそこにいたのか分からないんです。気づいたらそこにいたというか・・・・・・」
「わからない?」
「はい・・・・・・。私の記憶ではバスに乗っていたので、森なんかに入るわけなくて、ですね。えっと、途中で
寝てしまったのでなんとも言えないんですけど。とにかくバスに乗っていたことまでは覚えてるんですけど、
バスから降りた記憶もないので」
「ちょっと待て、“ばす”ってなんだ?」
「へ?駅から駅まで走ってるバスですけど・・・・・・」
「えき?」
「え?」
え?