事業仕分けの顛末     ― A.A. | ワールドフォーラム・レポート

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それほどでもない成果
民主党(途中から国民新党も一人加わった)の事業仕分けが終わった。連日、マスコミが大きく取上げたため、人々の関心も大きかった。予算の無駄に鋭く切込む民主党の国会議員の姿が連日放送され、民主党の支持率がアップしたという。国民は本当に政府の無駄使いに敏感になっている。

しかしその間に円高が進み、株式市場は連日安値を更新した(他の国の株価は上昇を続けている)。特に予算カットにからんだ企業の株価が急落した。また事業仕分け人が次々に予算カットを行っているのに、一方で菅副総理がデフレ宣言を行うなど「一体、日本経済はどうなるのだ」と不安が広がっている。


自民党に対抗するため、元々、民主党には構造改革派や財政再建派の政治家が集まった。一方、小泉政権時代、自民党の方が構造改革や財政再建の路線に転換し一時的に国民の支持を集めた。しかし昔からの支持者からは嫌われ、彼等は自民党から離れた。

民主党はこれらの自民党離れをした有権者の受け皿になるため、いち早く現実路線に転換した。しかし民主党の根っこは構造改革と財政再建の路線である。選挙のためこれを封印してきたのである。行政刷新会議にこの路線の最右翼の政治家が集まった。


20年も不景気が続くのに、優遇されている公務員に対する一般国民の感情的な反発は大きい。仕分人に国費の無駄使いや公務員の天下りを指摘されることで皆が溜飲を下げている。特に今回の仕分けの作業の対象になった事業にはおかしなものが多く選ばれていたと見られる。

実際、何でこのような事業に国費が投入されているのかと思われる案件もあった。少なくとも支持率アップの観点からは民主党の目論み通りとなった。今のところマスコミも好意的に報道している。


しかし筆者に言わせれば成果は言われているほどなかったと見ている。この事が段々知られるにつれ国民やマスコミの評価も変わる可能性がある。

事業仕分けで削られた予算額は、廃止1,400億円、予算計上見送り1,300億円、予算要求の縮減4,500億円、つまり合計でたった7,500億円である。この他に基金の国庫返納など(埋蔵金)が1兆円強ある。これを含めても1兆8千億円である。

今年度の一般会計の当初予算が88兆円であったが、来年度の概算要求は95兆円とかなり大きくなっている。子供手当など民主党のマニフェストの項目を除いても、物価の下落を考えると各省庁ともダメ元でかなり大きな概算要求を行っているのである(そもそも今年度の88兆円自体が麻生政権の景気への配慮がありその前の年度よりかなり大きくなっている)。これから7,500億円を削ってもほとんど大勢に影響はない。


事業仕分け人がバッサバッサと予算を切っているかのようにマスコミが報道しているが、客観的な数字で見ればほとんど予算は手をつけられていないと同じである。鳩山首相はせめて3兆円の削減を求めていたがこれにも遠く及ばない。

公務員の人件費や国債の利払い、そして医療費の国庫負担など事業仕分けにそぐわないものを除けば、対象となる事業費は25~30兆円と推察される。つまり事業仕分けで切ったのはその2~3%に過ぎない。このような結果になるくらいなら、最初から各省庁に事業費の概算要求の一律10%削減を命じた方が手っ取り早かった。おそらく今後数%の追加の予算カットが行われ、来年度の予算案が出来上がることになろう。



某政治家を行政刷新大臣に
事業仕分け対象の事業が200項目に絞られた時点で今日の結果は見えていた。しかし事業仕分けが大きな成果を上げたと誤解している人々が多い。またこのケチケチ運動を続けることによって民主党の支持率がアップすると思い込む民主党関係者も多くいるはずである。

しかしこのケチケチ運動が今後の民主党連立政権のマクロ経済政策の手足を縛ることになる。ようやく経済閣僚に鳩山総理から、円高対策と株価対策を命じられた。しかし今のところ出て来た対策は小粒なものである。たしかに事業仕分けで官僚を叩きでやっと7,500億円予算を削減したのに、大きな第二次補正予算を組むことになれば矛盾が生じる。

当然、事業仕分けを推進した構造改革派や財政再建派の政治家は大型補正予算には反対すると思われる。また国債増発に対しては藤井財務省も強く反発するであろう。都合良く埋蔵金が見つかれば良いが、今後、財源を巡って民主党連立政権は混乱するであろう。


事業仕分けの話に戻る。民主党はこの作業を大蔵省出身の加藤秀樹氏(NPO「構想日本」代表)に丸投げした。この時点で事業仕分けの性格がほぼ決まった。加藤秀樹氏は行政刷新会議の事務局長についたが、表には出てこなかった。

しかし三つある作業グループに各々5名ずつ加藤氏の息のかかった仕分け人が配置されていた。また仕分け人に渡される資料も加藤氏サイドで作ったものである。つまり仕分けの採決には加藤氏の意向が色濃く反映されていた。

加藤秀樹氏について述べれば長くなるので割愛する。ただこれまでの氏の文章を読む限り、彼は財政再建論者の中の最右翼であることが分る。しかし筆者に言わせれば、長くデフレ経済が続く日本において氏の主張するように表向き財政が健全化しても、国民の生活や産業がボロボロになるなら何をやっているかということになる。


まず仕分け人の選定方法が不明朗である。亀井金融・郵政担当大臣が「外国人(これについては後日取上げる)や市場原理主義者が選ばれている」と問題点を指摘しているが、全くその通りである。仙石行政刷新大臣は「事業仕分けは法的な拘束力はなく、最終的には政治が決定する」と弁明している。しかし藤井財務大臣は「仕分けで削られたものの復活はない」と断言している。一体どうなっているのか民主党は混乱している。

また何を基準に事業仕分け対象の事業を選んだのか明らかにされていない。さらに仕分けの基準も不明である。このように事業仕分け自体が訳の分らないものであった。とにかく大衆にアッピールすれば良いというスタンスである。これは小泉政権に通じる。もっとも加藤秀樹氏自体が小泉政権に近い存在であった。


しかし事業仕分けで面白いことがいくつかあった。まず小学生向けの英語教材の制作費が削られた。仕分け人が「何故、小学生に英語教育が必要なのですか」と切り捨てた。本誌05/6/27(第395号)「日本語の研究」で述べたように、この点は筆者も大賛成である。

また仕分け人のうち6名が横須賀や厚木の市役所の職員である。つまり地方公務員が国家公務員が作った予算案をバサバサと査定したのである。おそらく各省の官僚のプライドはズタズタであろう。

ともわれ筆者の事業仕分け作業全体の感想は「まどろっこしい」の一言ことである。加藤秀樹氏などわけの分らない外部の第三者の力を借り、事業仕分けと言った芝居がかったことをやらずとも、無駄な経費の削減なんてあっと言う間にできる。半分冗談であるが、某政治家を行政刷新大臣に据えれば良いのである。

だいたい事業仕分けこそ政治家自身が責任を持ってやる仕事である。自民党政権時代を通じ、これまで力のない政治家(マスコミへのアッピールだけを考えるような、官僚に信頼がなくばかにされている政治家)ばかりが行政改革を担当してきたのが間違いである。




筆者多忙なため来週号は休刊としたい。再来週号は今年の最後になる。

 ― 経済コラムマガジン09/12/7(596号)より転載 
                    http://www.adpweb.com/eco/index.html

09/12/7(596号)