IPO(新規株式公開)といえば、企業が株式を上場する際に新株を発行し、広く買い手を募る資金調達のこと。これをもじってICO(イニシャル・コイン・オファリング)と呼ぶ、新種の資金調達が欧米アジアで急増している。企業が株ではなく、独自の「仮想コイン」を新規発行して個人投資家など買い手を募る。



 米仮想通貨情報サイトのコインデスクによると、世界のICOによる資金調達額は2015年が3900万ドル(40億円超)、16年が2億5600万ドルだったのに対し、17年は7月までで13億7700万ドルに達した。今年上半期に企業がベンチャーキャピタル(VC)から調達した資金総額、約660億ドル(KPMG集計)の約2%にあたる。



 日本人起業家の長谷川潤氏やタイ人技術者らがバンコクで13年に創業したフィンテック(金融とテクノロジーの融合)のスタートアップ企業、Omiseホールディングス。仮想通貨、ポイントやマイレージなど、あらゆる「デジタル価値媒体」をやり取りできる情報システムを立ち上げるため、6月に2500万ドル相当の資金をICOで調達した。「OMG」と呼ぶコインを発行したところ、募集初日に数万人が買いきったという。

 


この事業で最高責任者を務めるタイ人のヴァンサ・ジャティカワニット氏は「システム稼働後は多くの人に運営に参加してもらう必要がある。少数に株を買ってもらうより、運営参画の入場券になるコインを多数に持ってもらう方が理にかなう」と説明する。



 実際、OMGは完成後の情報システムの機能を使うために不可欠な「カギ」としての役割も果たす。その価値が上がる、と見た投資家がコインを買った。

 ICOで発行するコインに価値を持たせる仕組みは発行企業によって千差万別だ。それによってコインの性格も大きく変わる。



 例えば、新しい決済サービスが完成した後にそのサービス内で使えるようになるコインなら、クレジットカードのポイントに近い。開発中の新しい仮想通貨と完成後に交換できるコインなら「通貨」のような決済手段。他の企業のICOに投資するファンドの持ち分のようなコインなら、限りなく株式や投資信託といった有価証券に近くなる。



 米証券取引委員会(SEC)は7月25日、ICOで発行されるコインは条件によって「有価証券」に該当し、投資家保護を念頭に規制対象とすると宣言。シンガポールの中央銀行も同様の声明を8月1日に出した。何の規制や監視もなく、完全に自由なICOを許す主要資本市場はなくなろうとしている。



 世界的なICO人気は「ビットコイン」など仮想通貨の値上がりの連想から、短期の利ざやを狙う投機熱が高じた面もある。それに乗じた詐欺や発行企業の破綻が相次ぎ、投資家が「悪貨」の横行に懲りれば、一過性のブームで終わる。



 一方で、ICOが正当な選択肢、つまり「良貨」として広がれば、従来の資本市場を補い、新ビジネスと起業家の育成を促す触媒となる。自由と規制のバランス、利用企業の良心が必要条件になりそうだ。