脳トレで読解力は上がらない?

では何をすれば上がるのか(2020論文考察)


脳トレだけを続けても、読解力はさほど上がりません。

伸びるのは、練習したその課題がおもとなります。それなら、読解そのものに負荷をかけて練習すればよいだけです。


この記事では、その根拠となる論文と、今日からできる練習法を紹介します。


41本の研究が出した結論

紹介するのは、2020年にSalaとGobetという二人の研究者が発表した論文です。テーマはワーキングメモリ(情報を一時的に覚えながら処理する脳の働き)の訓練です。

二人は、子どもを対象にした訓練研究41本、合計2,375人分のデータを集めて統合しました。この手法をメタ分析(複数の研究結果をまとめて分析する方法)と呼びます。一つの実験より、偏りの少ない結論が得られます。


結果は、測るものによってはっきり分かれました。訓練した課題に似た記憶課題には、小〜中程度の効果がありました。一方、知能、算数、言語の成績への効果は、ほぼゼロでした。 


比較相手のグループにも別の活動をさせた、厳密な研究だけに絞るとどうなるか。学力や知能への効果量(効果の大きさを表す数値)は0.001でした。事実上のゼロです。


著者は、この種の訓練研究にこれ以上資源を投じる理由はない、と結論づけています。


見落とされがちな事実:練習した課題は伸びている


この論文は「脳トレは無意味」という文脈でよく引用されます。しかし、結果の前半を見てください。記憶課題には、きちんと効果が出ています。


しかも、その効果には法則がありました。訓練した課題と測った課題が似ているほど、効果が大きかったのです。数字を覚える訓練をすれば、数字を覚えるテストが伸びます。形が離れるほど、伸びは小さくなります。


筋トレにたとえると分かりやすいです。腕立て伏せを続ければ、腕立て伏せの回数は増えます。けれども、それで足が速くなるわけではありません。人は、練習したことが上手くなるのです。


それなら、読解そのものに負荷をかければいい


ここからはこの論文を前提とした、私の考えです。練習した課題が伸びるのなら、伸ばしたいものを直接練習すればよい。読解力を上げたいなら、読解の場面でワーキングメモリに負荷をかけるのが近道だと考えます。

文章を読む作業は、もともとワーキングメモリを強く使います。前の段落の内容を頭に置いたまま、次の段落を読み進めるからです。途中で前の内容がこぼれると、話の筋を見失います。


数字や図形を覚える脳トレは、この作業と形が違いすぎます。だから読解にはあまり効果がない可能性が高いです。

逆に、実際の文章で「覚えながら読む」負荷を少しずつ上げれば、練習と本番がほぼ同じ形になります。伸びた分が、そのままテストや仕事で使える力になるはずです。


負荷をかけた読解練習、三つの段階

用意するのは、新聞のコラムや教科書など、少し歯ごたえのある文章だけです。

  1. 一段落読んだら本文を隠し、要点を一文で言う。
  2. 二段落続けて読んでから本文を隠し、二つの段落の関係を説明する。対比なのか、原因と結果なのか、具体例なのかを言葉にします。
  3. 最後まで読んだら、何も見ずに全体を三文でまとめる。

コツは、本文を見ないことです。見ながらまとめると、頭に保持する負荷がかかりません。

楽にできるようになったら、隠すまでに読む段落の数を増やします。「少しきつい」と感じる量を保つのが目安です。簡単すぎても難しすぎても、練習の効果は薄くなります。

 

出典

Sala, G., & Gobet, F. (2020). Working memory training in typically developing children: A multilevel meta-analysis. Psychonomic Bulletin & Review, 27(3), 423–434.

論文ページ:https://doi.org/10.3758/s13423-019-01681-y
無料で読める著者版:https://eprints.lse.ac.uk/103311