前回、雇用に当たってHIV感染者をどのように扱うのか紹介すると約束しましたので、今回はこの件について書いて見ます。もちろんこれはアメリカのケースで、法律と判例による取り扱いです。いくつかの実例を見てください。


1)精神障害を持つ労働者がHIVに感染していることが判明しました。この場合は、他の人への感染リスクが低いということで、解雇は許されませんでした。


2)消防署員がHIVに感染していることが判明しました。しかし、この障害は本来の仕事に支障をきたさないので、解雇の理由にはなりませんでした。つまり彼には消防署員の仕事が「できる」からです。(前回の話を思い出してください。)


3)学校の先生はHIVに感染していましたが、エイズが発症して一時入院しました。治療を受けると体調がよくなり、退院して仕事に復帰しようとしたのですが、学校はそれを認めませんでした。しかし、この扱いは不当であると判断されました。何故なら、退院したときの医師の診断書には、仕事が「できる」(これも前回の話を思い出してください)と記されていたからです。


4)食品加工工場で働く人がHIVに感染していることが判明しましたが、これを理由に解雇することはできませんでした。確かに、感染症を持つ人は食品を扱う仕事に就くことが出来ませんが、HIVは感染症に指定されていないのです。


5)看護師の場合はもう少し複雑です。まず、背景をお話します。アメリカではドラッグ(覚せい剤、大麻、麻薬等)を使う若者が少なくないので、アルバイトであっても雇用条件の一つとしてドラッグテストを義務付ける場合があります。会社が特定の人だけにテストを受けさせれば差別になりますが、全員に平等に受けさせるのであれば差別にはならず、その結果を本人から会社に提出させることを雇用条件にしても構いません。


さて、ある病院では看護師全員にHIVのテストを受けさせました。すると一人の男性看護師はHIVに感染しているという結果が出たのです。同性愛者である彼は、実は元彼氏がエイズで亡くなっていました。彼はそのことがバレたらまずいと思い、試験結果の病院への提出を拒否しました。お陰で病院はこの看護師を解雇することができました。皮肉にも、もし正直に結果を提出していたら、病院は彼を解雇できませんでした。なぜなら、HIVに感染していても看護師の仕事は「できる」し、さらに看護師の仕事は他人への感染の危険性が低いと判断されているからです。


6)しかし、さすがに手術助士の場合は違いました。確かに手術助士は自分でメスを使うわけではありませんが、血だらけの現場で、万一本人の血が患者の血と混ざったら取り返しがつかないので、「HIV感染者は手術助士の仕事をしてはならない」と判決で決まりました。

ここで結論を言います。HIV感染は他の障害と全く同じ扱いになっています。特別扱いはありません。理解していただけましたでしょうか?


調べていないので、日本ではこのようなケースの扱いがどうなるのか分かりませんが、とても考えさせられますね。憲法が保障する「働く権利」という人権の意味や価値を。少なくとも先日の参院選で川田龍平さんが当選したことは、日本の国民が、今までの日本政府の人権に対する対応について不満を持っているという現われではないでしょうか。


毎回するつもりはありませんが、たまにはこのブログで、こういう小難しい話もさせて下さいね。長年日本に滞在している以上、この日本がより良い社会になって欲しいと願っていますし、それに役立つような情報の提供もしたいのです。