「エセー」を読みかけて挫折したことがあるが、ページ数ばかり多くてちっとも面白くないという印象しか残ってない。一見風変わりな気のきいた文章が随所に見られるものの、所詮は個人的な趣味趣向か平凡な常識論に過ぎない。こんなものがなぜパスカルから西田幾多郎に至るまで第一級の知性を魅了し続けたのか・・・こうした疑問をお持ちの読者も多いはず。そんなあなたにこそ本書を奨めたい。「エセー」は決してつまらぬ本ではない。いやむしろ噛めば噛むほど味わいを増す渋い本である。本書を読み進めば、自己韜晦と見紛うスタイルからも意外に人間モンテーニュが透けて見える。およそ改革というものを全否定してみせるところなどは、単なる書斎の人でなかったモンテーニュの面目躍如たるものがある。最も美しいのは、本書でも最後に取り上げている最終章の「経験について」だ。 ここでのいかにも日本人好みの達観を読めば、徒然草や方丈記と比較されるのもうなづける。こうした尽きせぬ魅力にもかかわらず、一見どうでもよいおしゃべりがいささか多いせいか、評者のような怠惰な読者は読了する気力がなかなかわいてこない。それではいかにももったいない。本書は一度挫折した読者にはもう一度「エセー」に向かう勇気を与えてくれるだろうし、原著のボリュームにたじろいでいる読者には「寝る前5分」で手っ取り早くその勘所を伝授してくれる。そんな得難い入門書だ。