実は、私は以前に
車の営業をしていました。
そのときに
先輩によく言われたことがあります。
「印鑑をもらうまでは、契約じゃない」
つまり、それまでは絶対に気を抜くなという
営業のアドバイスです。
確かに、
どんなに「買っていただけそうな」お客様でも
それが必ず契約につながるわけではありません。
「家族に購入を反対された」
「他社で良い車をみつけた」など、
様々な理由で契約にいたらないことも
たくさんありました。
(あ、いえ、たくさんではないですかね)
もしかしたら、みなさんの中にも
似たような経験をお持ちの人も
いるかも知れません。
このように、契約は印鑑がひとつの
区切りになるわけですが、
それでは、「採用」はどうでしょうか。
例えば、採用するつもりだったけど、
急な事情で採用ができなくなったとします。
その場合はどの状態までだったら、
断ることが認められるのか。
採用までには、
3つの段階があります。
まず、選考段階、
次が、内々定段階、
最後が、内定段階です。
選考段階であれば、
まだ何も決まっていないわけですし
問題なく認められるのは言うまでも
ありませんが、
内々定、内定の場合はどうか?
それについて裁判があります。
ある不動産会社が、
内々定通知をした新卒の学生に
その取り消しを行いました。
その学生は、納得いかないとして、
会社に損害賠償を請求しました。
では、その結果どうなったか?
まず、法律的な前提をお話しますと、
内々定と内定は大きく違います。
内々定では、
基本的には労働契約は認められません。
(つまり採用したとは認められない
ということです)
ですが、
内定は本人に採用と伝えるわけですので
労働契約が成立したと認められます。
そのため、
内定通知後に、内定を取り消すことは
解雇と同じ意味になるのです。
では、この裁判は内々定なので、
問題ないのでは、
と考える人が多いでしょう。
ところが、この裁判では
会社が負けました。
ポイントは、
「内定に対する期待」です。
内々定を取り消したことに対しては
この裁判でも「問題なし」とされました。
さきほどお話したように
「内々定=採用」ではないからです。
ただ、内々定を出してからの
そのあとに問題がありました。
そのあとの流れは
具体的には次のとおりでした。
5月、「内々定のご連絡」を学生に郵送
その翌日に、学生は入社承諾書に記名、
押印して返送
↓
9月25日、会社が学生に電話をして
「内定通知授与は10月2日に行う」と伝えた
↓
9月26日以降、業績の悪化のため、
採用の内々定の取り消しを社内で決定
↓
9月29日、その日付けで、会社は学生に
「採用内々定の取り消しのご連絡」
と題する書面を送付
以上がその流れです。
さて、この流れをみて
みなさんはどう感じましたか?
この学生の立場になれば
「あまりにも急に」取り消しがされたと
感じるのではないでしょうか。
(会社の立場になれば、
もちろんいろいろな事情は
あったと思いますが)
これを裁判所は
「期待権の侵害」として認めました。
それはつまり、
この状況では学生が採用されることを
期待するのは当然であり、その期待は
「法律的に保護されるべきものである」
としたということです。
さらに、この会社には
その後の対応にもまずい点がありました。
それは、
この学生がメールで詳細を
問い合わせたにもかかわらず、
具体的な説明を行わなかったことです。
これも、裁判で
「誠実な態度で対応したとは言い難い」
とされました。
いかがでしょうか?
これを実務にあてはめると
注意すべき点は2つあります。
まず1つ目は、形式上は内々定でも
実質が内定に近い場合は
そう認められることがある
ということです。
例えば、面接などで
「ほぼ、内定のようなものだから」
「ぜひ入社していただきたいと
思っている」
などは、応募者に対する気遣いや
リップサービスだったとしても
「内定」ととられる可能性があります。
特に、それが経営者や人事責任者の
言葉であれば、その傾向はさらに
強くなります。
もし、その後に
不採用の可能性があるのであれば、
必要以上に内定を期待させるような
言い方は避けたほうが良いでしょう。
2つ目は、もし万が一、
採用を取り消す場合は、
「なるべき早く伝える」
「誠意をもって、真摯に説明をする」
ということです。
採用を取り消したい会社など
あるわけがないと思いますが、
万が一のためには
これらの点は注意しておいたほうが
良いでしょう。
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