1 設問1

 1 逮捕①について

  (1) ①自体の適法性について

   ア 逮捕の理由について

     逮捕状を請求するには,逮捕の理由を認めるべき資料を提供しなければならないところ(刑事訴訟法(以下,「法」とする)1991項,刑事訴訟規則(以下,「規則」とする)143),本件でPは,Wの供述録取書を疎明資料として逮捕状の発付を受けている。

     もっとも,Wが甲の写真を見て犯人に間違いないと断言したのは,事件から4か月も経過した後のことである。通常,そのような長期間が経過した後に犯人だと断言すること困難である。

     そこで,Wの供述録取書のみでは逮捕の理由が認められず,他の逮捕の理由を示す疎明資料は存在しないため,逮捕の理由はない。

   イ 逮捕の必要性について

     甲には前歴前科がなく,強盗事件については全く身に覚えがないと供述している。それゆえ,甲が逃亡するおそれがあるとは言い難い。

     また,Pらは,甲を尾行や張り込みをしている以上,甲に逃げられるおそれは低い。

     そうだとすれば,逮捕①に関しては「逮捕の必要がない」ことになる。

   ウ よって,逮捕①は違法である。

     なお,PV女に対する殺人及び死体遺棄事件を解明する目的で,甲を通常逮捕している。これは,いわゆる別件逮捕となって違法とも考えられうるが,実際には殺人・死体遺棄事件に関する取調べは1日約30分間の説得にとどまっている。即ち,強盗事件においての逮捕の実体は喪失されていない以上,別件逮捕としては違法ではない。

  (2) ①に引き続く身体拘束の適法性について

   ア 前述のように,甲には強盗事件を犯したことを疑うに足りる理由がないため,勾留の理由も認められない(601項柱書)

   イ また,甲に罪証隠滅や逃亡のおそれもなく,甲に定めまった住居がないとの事情もない以上,法601項各号の勾留の必要性は認められない。

   ウ よって,甲に対する勾留は違法である。仮に,勾留の要件を満たすとしても,先行している逮捕①が違法である以上,違法性を承継して逮捕①に引き続く勾留も違法となる。

 2 逮捕②について

  (1) ②自体の適法性について

   ア Qは,乙を現行犯逮捕(2121項,213)しているところ,Q自身が乙の万引きを現認しているため,犯罪と犯人の明白性が認められる。

     また,Qは直ちに乙を追い掛けて逮捕しているため,逮捕の時間的場所的接着性も認められる。

     さらに,乙は,Qに呼び止められた際,突然逃げ出す行動に出ており,逮捕の必要性もある。

   イ よって,Qが乙を現行犯逮捕したことは適法である。

     なお,乙への現行犯逮捕は別件逮捕により違法となるかも問題となるが,Qは,乙に対してV女に対する殺人・死体遺棄事件に関する事項を一切聴取していない以上,逮捕②の実体が喪失していないため,違法とはならない。

  (2) ②に引き続く身柄拘束の適法性について

    まず,乙は窃盗の現行犯人として現認されて逮捕された以上,勾留の理由がある(601項柱書)

    次に、乙は単身で居住している以上,いつでも逃亡するのが容易であるため,勾留の必要性もある(6013)

    よって,乙に対する勾留は適法である。

 3 逮捕③④について

  (1) 逮捕③④自体の適法性について

   ア 甲について

    () 逮捕の理由について

       メール①には,Bが甲乙からV女を殺害したことを聞いた状況と,B甲及び乙の3人でV女の死体を遺棄した状況が記載されていた。かかるメール①は,Bと親しい関係にあるA女に送ったもので,虚偽の可能性は低い。これは,B以外はBのパソコンを使用することがないと断言するA女の供述からも虚偽のおそれはないと考えられる。

       そして,甲自身は,Pに対しV女を埋めた旨の供述と,メール①の内容に沿う供述をしている。また,甲の携帯電話に保存されていたメール②(資料2)には,メール①を前提としたV女の死体遺棄に対する報酬に関する記録が残っていた。

       以上のような事情に照らせば,甲がV女の殺人及び死体遺棄を犯したことを疑うに足りる理由がある。

    () 逮捕の必要性について

       甲は,逮捕①に基づくPの説得にもかかわらず,V女に対する殺人・死体遺棄に関する供述に一切応じなかった。

       前述の罪を犯したことを疑うに足りる理由がありつつ,供述に応じないことは逃亡のおそれも考えられるため,逮捕の必要性がある。

    () よって,逮捕③は適法である。

   イ 乙について

    () 逮捕の理由について

       乙のパソコンメールには,BV女の死体遺棄をしたことに対する報酬に関するメールの交信記録が残っていた。

       これもメール①を前提としたものであり,メール①自体が内容において信用性が高いものであるため,乙もV女に対して殺人・死体遺棄を行ったと疑うに足りる相当の理由がある。

    () 逮捕の必要性について

       乙は,上述の逮捕の理由が認められるにもかかわらず,余罪はない旨供述し,捜査に協力する姿勢がない。それゆえ,乙においても,逃亡のおそれは考えられ,逮捕の必要性もある。

    () よって,逮捕④も適法である。

  (2) その後の勾留について

    甲乙には,勾留後においても殺人・死体遺棄についての一切の質問について黙秘しているため,逃亡の恐れがある。

    それゆえ,甲乙には勾留の必要性が認められ,甲乙に対する勾留は適法である。

2 設問2

 1 資料1の証拠能力について

  (1) 資料1の捜査報告書には,甲乙の供述を聞いたBの供述や,B自身の供述が含まれている。

    そこで,資料1は伝聞証拠(3201)として証拠能力が認められないか検討する。

  (2)ア この点,伝聞証拠に証拠能力が認められない趣旨は,供述証拠には,知覚・記憶・表現・叙述という過程の中で過誤が混入しうるところ,伝聞証拠においては反対尋問(憲法372)の機会がなく,過誤をテストすることができない点にある。

     そこで,伝聞証拠とは,公判期日における供述に代える書面,又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述であって,原供述の内容の真実性を証明するために使用される証拠をいうと解する。

   イ 本件では,資料1の立証趣旨は,「殺人及び死体遺棄に関する犯罪事実の存在」とされているところ,資料1から立証される要証事実もその記載内容に照らして「殺人及び死体遺棄に関する犯罪事実の存在」となる。

     そうだとすれば,資料1の中の甲及び乙の「殺した」「埋める……のを手伝ってくれ」や,Bの「埋めた」という供述の内容が真実かどうかが問題となる。

   ウ それゆえ,原則として資料1には証拠能力は認められない。

     もっとも,真実発見(1)の見地から,証拠とする必要性と,信用性の情況的保障がある場合には,例外的に証拠能力が認められると解する(321条以下)

  (3) そこで,伝聞例外について検討するに,まず捜査報告書自体の証拠能力については,3213項によってPが真正に作成されたものであることを供述することで認められると考えられる。

    なぜなら,資料1のメールは,単に印刷したものであって,五官の作用によって物の存在・性状を認識し記録する検証と同視できるからである。

  (4) 次に,Bの供述部分については,32113号により証拠能力が認められる。

    即ち,Bは「死亡」し供述不能であって,Bの供述部分は「完全に埋めた」とされており,要証事実の証明に欠くことができず,そして資料1のメールは他人が使用していないBのパソコンから送信されたもので,親しい間柄にあるA女に送られたものであることから特信情況も認められるからである。

  (5)ア そして,甲乙の供述部分については,Bが代わりに述べるという伝聞過程が加わるため、再伝聞にあたる。

     もっとも,Bの供述に証拠能力が認められることにより,Bの供述は「公判期日に代えて」証拠となる(3201項反対解釈)

     そうだとすれば,Bの供述を「被告人以外の者の……公判期日における供述」とみなして,3241項,3221項の要件を満たせば証拠能力が認められると考える。0

   イ 甲部分については、「殺した」,「V女を埋める……のを手伝ってくれ」と犯罪を認める内容であるから,甲にとって「不利益な事実の承認」にあたる。また,任意性を疑う事情もない(3221)

     よって,甲供述部分の証拠能力は認められる。

   ウ 次に,乙部分についても,甲と同様に「不利益な事実を承認」するもので,任意性にも疑いはない(3221)

     よって,乙供述部分にも証拠能力は認められる。

  (6) 以上により,資料1の証拠能力は認められる。

 2 資料2の証拠能力について

  (1) 資料2についての立証趣旨は,「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録の存在と内容」とされているところ,資料2の内容は,V女を埋めた報酬の支払いについてのやり取りである。

    かかる資料2により要証事実となるのは,死体遺棄に関して報酬の約束をしていたことである。

    そうだとすれば,資料2の内容ではなく,報酬に関するメールをしたこと自体,即ちメールの存在自体が問題となる。

    それゆえ,資料2は非伝聞証拠となる。

  (2) よって,資料2にも証拠能力は認められる。

以上

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【追記】

設問1

捜査は残念。別件逮捕があからさまなのに、規範を挙げずになお書きで済ますという暴挙。

逮捕勾留の要件の検討も、独りよがりというか、常識離れしたものばかりで自分にがっかり。

設問2

伝聞は大枠を捉えられたのが沈まずに済んだのか?でも、殺人と死体遺棄とで分ける部分、甲と乙とで証拠の使い方が異なる点など、細かい部分がつめ切れていない。

また、資料2のあてはめは間違っていると思う。いや、要証事実の捉え方をミスっている。要証事実を毎度毎度認定するのではなく、立証趣旨が意味なくなるときに認定するという判例の考え方が理解できていなかった。


※刑訴も書く訓練が必要。伝聞の構造は特にそう。

捜査に関しては、自説を固めるのが最優先!あてはめも、常識から離れないこと!!!!