フィルハーモニア 2/19(カーディフ) | From Gillespie Road:ヴィンテージ&ハンドメイド UK雑貨店主のブログ

フィルハーモニア 2/19(カーディフ)

Thu 19 Feb 2009, 7:30pm
St David's Hall, Cardiff

Gustavo Dudamel conductor
Emanuel Ax piano
BERLIOZ Overture, Le carnaval romain
MOZART Piano Concerto No. 17, K453
PROKOFIEV Symphony No. 5

プログラムに紙が挟まっていて最後の最後でドキっとしたが、プログラムの変更だった。
誠に残念だがエステヴェスがなくなり、火曜にも演奏されたベルリオーズに。ちょー残念。リハーサル不足のせいだろうから仕方ないか…まあ、2曲が同じになるということで比較はできるかな、と思い直す。

しかしカーディフ、空き過ぎ!!

そのお陰で前々日に前から2列目のチケット取れたのだから文句は言えないが、7割くらいの埋まり具合。有り得ないわホント。ホールも適度な広さだけど古さはありありだ。

そしてようやく、見慣れたもじゃもじゃ頭のちっさい兄さんが登場。ふえええよかったよう~。
SBYOの青少年に溶け込んじゃうくらい小さいドゥダメルだが、大人の西洋人に囲まれるとよりいっそう小さく見える。特にフィルハーモニアのコンマスは縦にも横にも大きいので倍角目ぐらいだ。

で、一曲目

初めのフレーズだけで目を見張った。
なにこれおんなじ曲ですか!?!!
思わず火曜の解説シートを出して確認しちゃったよ。

全然活き活きしている。跳ねている。光っている。


言うなれば、きれいだけど動かない「謝肉祭のパレードの絵」だったものが、色彩を持ちそれぞれに躍り出したかのよう。だってこれは「ローマ」の「謝肉祭」なのだから、生命力に溢れ楽しみを謳歌するものでなければならないはず。ドゥダメルとフィルハーモニアが描き出してみせたのはまさにそのようなカラフルで活気に溢れる音の輝きキラキラだった。
本来自分のチョイスでない曲目で、ここまで見事に作ってくるドゥダメルも、別の指揮者の音楽にここまで合わせて変えてくるフィルハーモニアも凄い。なんてことだ。
そしてこの人はなんて生命力に溢れた指揮をするんだろう。指先の動きから飛び跳ねる足先まで、彼の小さいからだそのものが音楽となり、音楽のよろこびそのものを体現している。ほんとうに、音楽の神様にチャネルが通じているとしか思えない。
そして、SBYOでそうなのは当然だけれども、フィルハーモニアほどの芸達者なプロたちがその「音楽の喜び」をみなぎらせ、彼の音楽を表現しようと本当に一生懸命になっているのに改めて心動かされるのだ。

さて、一息ついてモーツァルト、これは実はわたしとしてはちょっと不安だった。この作曲家に関しては私は「できればオリジナル楽器で、あるいは古楽奏法で」というちょっと偏った、はっきりした好みを持っているので。ドゥダメルのモーツァルトってのもイメージではなかったし。
まあ、当然のことながら今回はそのような演奏ではなく、どっちかというとロッシーニっぽい響きかな?と思ったが、エネルギーは感じさせながらもちゃんとエレガントで軽やかな協奏曲になっていた。やはりこの人のリズム感はすばらしいなと思う。エマニュエル・アックスもこれまたでっかいピアニストだが、それに似合わぬ非常に軽妙な繊細なピアノで、何よりオーケストラとピアノがきちんと噛み合っている楽しさがいい。
しかし、何か雑音が…と思ったらアックスじゃった。いや、ドゥダメルが唸り系なのはとっくに存じているのだが、指揮者とソリストの両方に唸られるとちょっとうるさいぞ(苦笑)

シルバー度の高いカーディフの聴衆もだんだん暖まって来たところでメインディッシュ。
これは絶対にいいと期待していたが、もうたまらん。
火曜日のも悪くないと思っていたがやっぱり表現の幅が全然違う。ドゥダメルをいわゆる「爆演系」だと思っている人も多いかもしれないがそれはないと思う。敢えて言うならばSBYOの音がやはりどうしても荒削りなのでそういう印象が出来るのかもしれない(改めて気づいたのだけど、SBYOの音が粗いのは若さや技術に加えて楽器のクオリティっていうのもあるんだよな、とこの濁りのないフィルハーモニアの音色を聴いて思った。いや、私はSBYOの大ファンだけどね)。
話を戻して、第一楽章のだんだんに積み上がって行く音の立体感とか、スケルツォのスピードとか、第三楽章やフィナーレ冒頭の実に繊細な静かな表現、多彩なものを見せて、じゃない、聴かせてもらった。特にフィナーレのまるで雷鳴を伴った竜巻のような、それでいて流麗な音はこれぞドゥダメル、という感じでとにかく圧倒されたままクライマックスを迎えた。

指揮台を降りると本当にカリスマ性も何もあったもんじゃない謙虚な兄ちゃんになっちゃうドゥダメルであるが、相変わらずソリストやオケを讃えることに余念がない。もうコンマスとの抱擁は親子か!て感じだ。
客席はもちろんスタンディングオベーション。隣の席に座った女性(ピアニストらしい)と時々話をしていたのだけど、彼女はしきりに"Electrifying"ドンッと言っていた。うんうん。カーディフでここまで観客が反応しオベーションを繰り返すのは珍しいことなんだそうだ。

わざわざ時間をかけてここまで来たことは十二分に報われた一夜だった。