ゴロウと呼ばれる前は、このカメと言われていました。
このカメはアオウミガメです。水族館で飼われていました。
でもそのアオウミガメには名前がありませんでした。
このカメにはちぃちゃんという大好きな女の子がいました。
ちぃちゃんはお父さんと水族館で初めてアオウミガメを見ました。
とても美しくてかわいいアオウミガメがちぃちゃんの目に写りました。
それからというもの、ちぃちゃんはアオウミガメのとりこになりました。
ちぃちゃんはお父さんに
お父さん、ちぃちゃんアオウミガメを飼いたいなあ
なあちひろ、アオウミガメを飼うにはこの家全部が海にならないと飼えないんだよ。とお父さんは笑いました。
ちぃちゃんは想像してみました。
水族館で一番大きなアオウミガメをゴロウと名付けました。
お家で飼えないから、何度も水族館に通ってゴロウの泳ぐ姿を大きく目を開けて観察しました。
そして、頭の中でゴロウと楽しく遊びました。
甲らの上に乗って海にを泳いだり、握手をしたり、頭と頭でゴッツンコしたり、どっちが深く潜れるか競争してみたり。
そしてこんな会話もするのでした。
ゴロウ、あんたは今日からゴロウですからね。
ゴロウ、昨日の夕飯は何食べた?
海そうですよ。
そんなにまずそうなもの食べるの?
まずくはないですよ。ちぃちゃんは何食べたの?
カレーライス、大好きだし。
僕も食べてみたい!
今度来た時、持って来てあげるね。
ありがとう!でも飼育員さん許してくれるかな?
ゴロウの目は横についてるけど、どんな風に見えるの?
えっ、どんな風って言っても僕にはこの見え方しかわからないから、説明できないよ。
あっそうね。
ちぃちゃんは今何年生?
四年生だよ。
学校、楽しい?
もちよ。
何習ってるの?
えーと、いろいろ
ふーむ
あっそうそう今度の日曜日、僕に触れるよ。
ウミガメを触ってみようっていうイベントがあるんだ。
行く行く、絶対にいくからね。
僕じゃないカメを触ったら怒るからね。
はいはい、間違う訳ないでしょ。こんなにいつも会ってんだから。
ゴロウはニンマリ微笑みました。
じゃあ、今度の日曜日ね。
バイバイ。
バイバイ。
ちぃちゃんは難しい病気にかかっていました。
いよいよ待ちに待った日曜日が来ました。
雨と風が強い日でした。
傘が吹き飛ばされそうになりましたが、なんとか水族館にたどり着きました。
ところがゴロウがいません。どこをどう見てみてもゴロウがいません。
変だなあとちぃちゃんは思いました。
飼育員さんにたずねてみると、ゴロウは眼の病気で多分、見えなくなって昨夜、水そうにぶつかって死んでしまったとのことでした。
ゴロウは死ぬぎわまで誰かを探そうと何度も何度も水そうを回り続けていたそうです。
そして、飼育員さんからゴロウの甲らのカケラをもらいました。
ちぃちゃんは泣きながら、そのカケラを小さな手でゆっくりゆっくりとなでると、そうっと耳に当ててみました。
しばらく耳に当てていると、なんとその甲らのカケラからゴロウの声が聞こえてするではありませんか。
ちぃちゃん、そんなに悲しまないでください。
僕はちぃちゃんなが会いに来てくれるのを楽しみにしていました。
ちぃちゃんはその大きな澄んだ目で僕を優しく見つめてくれましたね。
そしてたくさん一緒に遊びましたね。
ゴロウという名前を付けてくれたのはちぃちゃんです。
僕は感じました。ちぃちゃんが重い病気でいることを。
どうか僕の甲らのカケラを粉にして飲んでください。
きっと僕はちぃちゃんと共に生き続けることでしょう。
ちぃちゃんはこの春、小学校を卒業しました。
病気はゴロウが治してくれたとちぃちゃんは信じています。
そして、耳を澄ましてみれば、大好きなゴロウのちぃちゃん、ちぃちゃんと呼びかけるような声がいつも聴こえてくるのです。
2018/10/14
倉田桜聖