あけましてです。
正月らしく?寝てました。
寝ころびながら猪瀬直樹著『ピカレスク 太宰治伝』を読んでました。
この本は太宰治の玉川上水での心中の真相をさぐるというテーマで書きすすめられていく本で、その謎の中心にあるのが死後発見された書き損なわれた遺書の文面、
「井伏さんは悪い人です」という太宰の師匠、井伏鱒二にあてた文章の意味と真相へ迫っていくのですがいやあスゴイ本でした。
まず太宰は青森の高校時代に一回自殺未遂をして
上京後鎌倉で銀座の女給、田部あつみと心中して女は死に太宰は助かるのですが
そのふたつの事件は太宰が追い詰められて計った狂言自殺だったことを立証していきます。
地方の大金持ちの家に生まれ芥川龍之介に憧れ文学を志す太宰治の青森時代から
玉川上水事件までを丁寧に追っていく猪瀬直樹の文章は共産主義に中途半端に首をつっこみ都合が悪くなると薬と女に走り死なない程度に自殺を試みるこの金持ちの坊ちゃんに相当距離を置いて眺めているように感じます。太宰ファンのひとにはおすすめできません。
でもっと衝撃だったのは太宰はその作品『女生徒』や『斜陽』がファンの女の子が書いていた日記をもとにしている事実や井伏鱒二の『ジョン万次郎~』や名作『黒い雨』には底本があり、
はっきりいうと盗作している事実が書かれていること。
太宰は『斜陽』のモデル太田静子に日記を書かせ愛人にして子を産ませたとたん別な愛人と心中死するし
井伏鱒二は後年自身の文章でこの事実をあいまいに認めながらも文壇の長老として生き残るのですが、この本の最大の謎、なぜ太宰は井伏を悪人とよんだのかは実は上記とはまた別の理由でいやはや変な人たちです。
先行する作品を取り入れながら自身の作品をつくることは
絵でも映画でも音楽でも詩でも小説でも当然だし、「読んだから書く」のが小説家だとも思うのですがこの本のふたりの小説家を書く猪瀬直樹の筆は良いとも悪いとも断ぜず事実のみでふたりに迫っていき読んでいる僕は『女生徒』や『富嶽百景』、『山椒大夫』や森鴎外、川端康成、や『蟹工船』が読みたくなったり
井伏鱒二が『山椒大夫』を書かなければ溝口健二の映画『山椒大夫』は生まれなかったのだろうし溝口健二のこの作品がなければ1965年から2年間『カイエ・デュ・シネマ』同人としてトリュフォーたちと行動を共にする山田宏一の珠玉の映画本『友よ 映画よ わがヌーヴェル・ヴァーグ誌』のなかで山田宏一が書くアニェス・ヴァルダ『幸福』とジャン・ユスターシュ『ママと娼婦』両方観たくなったりはしなくて観たらどちらもひとりの男が妻と愛人とともに仲良く暮らすのだけれど両方とも妻は自殺するのに受ける印象は真逆でまあフィクションだしな、と油断してたら『ママと娼婦』のほうはユスターシュの当時の生活をそのまま再現したうえに映画公開直後に本当に妻が自殺してしまった事実を知って呆然としながら『ピカレスク 太宰治伝』を思い出すのでした。
古本屋【WONNDER3】onlineshop
- ピカレスク 太宰治伝 (文春文庫)/猪瀬 直樹
- ¥780
- Amazon.co.jp