顎先フィラーの骨浸食副作用と
顎無し手術の限界:専門医の深層分析
こんにちは、口腔顎顔面外科専門医のパク・ジョンチョル院長です。
顔の骨に関する手術を執刀してみたら、顎先にフィラー(ヒアルロン酸)を注入した状態で来られた患者様とカウンセリングを行い場合があります。
フィラー(ヒアルロン酸)は1mmほどの微細なライン調整が可能で、出血が少なく回復が早いというはっきりとしたメリットがあります。大体の患者様が結果に満足し、医学的にも大きな問題がない場合が多いです。
しかし、全ての医療行為は明と暗が共存するように、長期間のフィラー(ヒアルロン酸)注入や繰り返した施術によって「骨浸食(Bone Erosion)」や望んでいない顔の変化を経験する場合も確かにあると思います。
今回は顎先ヒアルロン酸(顎無しヒアルロン酸)施術後に生じられる骨の変化と、フィラーを溶かして本人の骨で手術した場合に得られる結果と、その限界について客観的なデーターを通してご説明させていただきます。
ヒアルロン酸による顎先骨の変化:骨浸食
フィラーを注入後、たまに骨が押されて薄くなったりコケる現象、つまり骨浸食(骨吸収)を経験すると思います。
以下の画像はヒアルロン酸注入後に顎先の骨の変化を見せるCTの所見です。
顎先の骨が溶けたように押されている3D CTイメージ
黄色いサークルで表示された部位を詳しく見ると、フィラーの圧力によって骨の表面が溶けたように押されているのが観察されます。肉眼では不自然な所はなさそうに見えますが、骨の内部ではこのような変化が起きています。
側面写真からも骨の吸収が確認できます。
以下の画像はフィラー注入後、浸食された骨の厚さを測ったCT断面です。本来10mm以上だったと推定される骨の厚さが、フィラー注入部位の圧迫によって現在、5.16mmまで薄くなった状態です。正常的な骨の厚さと比べると、骨浸食の程度が理解しやすいです。
フィラー注入後の骨の断面CTイメージ
フィラーを注入していない骨の形と比較してみるといいです。
フィラーを注入しなかった骨の場合、表面が滑らかですが、フィラーによって骨が溶けるとこのように境界ができます。
この患者様は顎無し改善のために来院した方で、手術は無事に終わりました。ただ、骨浸食がひどい部位は骨が薄くて弱まっていたので、スクリュー固定が難しい可能性があります。
以下の画像は顎先前進術後、固定の状態を見せます。骨浸食がひどかった右側の部位は骨の接触面が1.52mmに過ぎなく、追加固定を行わず、骨浸食が少ない真ん中の部位(6.19mm接触)を中心に堅固に固定して手術を仕上げました。
手術後の固定部位の断面図
フィラーによる顔の長さの変化と弛み
顎無し改善のためフィラー(ヒアルロン酸)を注入しましたが、意図と違って顔が面長に見えたり顎先が弛んで見えたりすると、訴える方も少なくありません。
フィラーの重さによって軟組織が垂れ下がったり、筋肉の動きによってフィラーが移動したのが原因かもしれません。
この場合、顎先縮小や前進手術前、フィラーを溶かす過程が先に行われなければ正確な診断が難しいです。
以下の画像はフィラー(ヒアルロン酸)注入によって顎先の軟組織が垂れ下がって面長に見える状態(左側)と、フィラーを溶かして顎先手術後の様子(右側)です。手術時に骨の長さを減らさなかったにも関わらず(黄色い線と顎先骨の高さ比較)、フィラーを除去することだけで顔の長さが全体的に短くなり(黄色い矢印)、比率が改善できたのが確認できます。
フィラー注入後、伸びた顎先の長さ vs フィラーを溶かして顎先手術後の変化
フィラー溶かし前後の精密分析(CT比較)
多くの方が気になられる部分です。
「フィラーを溶かすと、本来の顎はどんな様子かな?」
一般的にはフィラーを溶かしてからは
顔面輪郭手術が終わった後CTを撮りますが、今回の症例は患者様の同意を得て【フィラーを溶かす前】と【フィラーを溶かした後】の2回でCTを撮影し、フィラーが実際に軟組織(肉)に与える影響を数値で分析することができました。
左側はヒアルロン酸ある状態、右側はフィラーを溶かした後の状態です。フィラーを溶かすと顎先の中央部のボリュームがはっきりと縮まり、顎が確然に短くなったのが見られます。ただ、尖っていたボリュームがなくなり、印象が多少四角く見えたりもします。
顎先手術 vs 顎先フィラー:何を選択した方がいい?
フィラーを溶かして顔面輪郭(顎先前進術)を計画する方は、以下のようなことを考慮してほしいです。
顎先手術でできること:
- 確実な前後方突出:本人の骨を利用して顎無しの印象を確実に改善できます。
- 長さ調整:骨の長さを減らしたり伸ばして顔全体の比率を合わせられます。
- 自然さ:異物がなく、本人の組織だけでラインを完成します。
顎先手術の限界(フィラーと比較時):
- 尖った顎先の形:ヒアルロン酸は液体(ゲル)性状なので、顎先を鋭く(Vラインを超えたシャープさ)作ることができます。しかし、本人の骨を利用する手術ではフィラーほど人為的に鋭い正面の様子を実現することに限界があります。
そのため、特有の鋭い感じがご希望だった方は、フィラーを溶かして顎先手術を受けると、丸いか広く見えると感じられるかもしれません。それは手術が間違ったことではなく、骨が持っている固有の形とフィラー(ヒアルロン酸)という材料の違いからもたらす結果です。
つまり、以下のような顎先の形が審美的だと考える方は、仮に顎先前進術を利用して顎の前後方的、垂直的位置を改善する予定だとしても、正面からの鋭い効果のためにフィラーを残存させるか、必要時に追加で注入する場合があります。
最後に
顎先フィラーは簡単で効果的な美容施術ですが、繰り返した施術は骨の浸食や軟組織の弛みを誘発する可能性があります。
もし、フィラーの副作用が心配であったり、フィラーだけでは解決できない顎無し症状を本人の骨を通して根本的に改善したいなら、口腔顎顔面外科専門医とカウンセリングを行い、正確な診断を受けて頂くのをお勧めします。
ただ、本人が求める美的基準に合わせて慎重に決めるのが望ましいです。
ありがとうございます。


















