一人で食べても贅沢~「実践 料理のへそ!」 | 「書く」を仕事に

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取材・文/有留もと子
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ライターの有留です。
いつもお世話になっております。

連休も今日でおしまいですね。
いいお天気が続いて、秋の休日を満喫されたのではないでしょうか。
私の方も、断捨離がだいぶん進み、部屋がスッキリしました。


さて、今日は本のご紹介。
小林カツ代さんの「実践 料理のへそ!」(文春新書)です。


一人で食べる贅沢、というのがあります。
すわ、炊き上がった! という電気釜の蓋を開ける。一気に湯気が上がる。すかさず、
その炊きあがったご飯の表面をしゃもじでぴゅーっと取る。削ぐように。ちょうど、子供
の描く「ワァー」と笑っている口に似た形に取れますよ。これを茶碗によそい、塩を振っ
て食べる。他にな~んもいらないくらいに美味しい。あとは底からほぐしておく。
   (「実践 料理のへそ!」小林カツ代/文春新書)



人生においてたびたび、というか、わりとしょっちゅう、クライシスに陥っているワタクシですが(笑)、
この本を初めて手に取った2005年の春も、仕事とプライベートがとん挫して随分と追いつめられていました。

仕事を受け過ぎて、スケジュールが滅茶苦茶になっていたんです。
新規のクライアントさんとは全く意思の疎通が取れず、
その人から電話がかかってくると動悸が激しくなりました。

夜も眠れず、簡単な仕事―たとえば取材中にメモを取るなどもできなくなり、
普段なら絶対にやらないようなメールのミスで、大切な人も離れていきました。

あっという間に自分がぶっ壊れていくのを、どうしようもなく眺めていましたが、
その新規クライアントさんの仕事で、自分になにが起こっているのかがわかりました。

要するに心身症だったんですねー。
ちょうど心療内科の取材をしていて、「こういう人は一度専門医に診せてください」という
チェックリストのすべてに、自分が当てはまっていました。

その頃はご飯も食べられなくなっていましたが、自分の様子がおかしくなっている
原因が分かったところで、ちょっと安心できました。
もっとひどくなったら、この先生に診てもらえばいいや、って。

その頃、本屋さんで立ち読みしたのがこの本です。
冒頭の文章を読んで、「まっしぐらに帰ってご飯を炊こう!」と思ったのを覚えています。

それくらい、カツ代さんの文章はイキイキとして、食べることの感謝と喜びに満ちていました。

その後も、落ち込んだときにはいつも必ずこの本を読み返します。
おなかが空いてきたら、もう落ち込みから回復するタイミング。
まずは塩ご飯、そしてこの本にあるメニューを作ります。
どれも簡単なんだけど、コーンキャベツをよく作るかな。


カツ代さんの本を読むと、彼女は料理研究家としてだけでなく、
エッセイストとしても、非常に優れた才能をお持ちだったことがよくわかります。
イラストも上手でした。


人生のピンチのときに、いつも読み返して元気をもらう。
この本は、私が目指したい仕事そのものです。


天国のカツ代さん、ありがとう。
今夜は麻婆豆腐にしようかな。







「実践料理のへそ!」は残念ながら在庫切れ。
「小林カツ代のおいしいがいちばん!」(大和書房)も、
カツ代さんのエッセイとレシピ、写真が多めでおすすめ!